研究実績の概要 |
近年、高齢癌患者が急速に増加しているが、老化に伴う身体機能の低下などにより治療の可否、治療法を決定するのに苦慮することが多い。高齢癌患者では、抗癌治療として、手術・抗癌薬物治療を行う上で、治療に耐えうることが可能か判断する必要があるが、高齢癌患者の全身状態の評価としては、サルコペニアなどの形態学的な評価および、フレイルなどの質問紙を用いた評価が検討されている程度であり、客観的なバイオマーカーは確立されていない。本研究はサルコペニアと癌患者の多数に認める癌関連疲労(CRF)の関連に着目し、CRFに関連する分子に着目することで、形態学的および自覚的な評価、臨床データと比較検討を行い、高齢者の個々の状態を適切に評価し、治療を決定する上での客観的なバイオマーカーの確立を目指すものである。これまでに動物モデルにおいて、免疫不全マウスに対しヒト繊維肉腫細胞株(HT1080)を担癌したところ、再現性良くサルコペニアの症状の一つである筋萎縮をきたすことを確認している。 また、進行癌患者において、重篤なサルコペニアの状態である悪液質患者を対象とし「疲労感」の評価を疲労感に関連する問診票(FACIT-F)を用いて行ったところ、悪液質患者では有意に疲労感を感じていることを確かめた。またその患者において、血漿中サイトカイン測定を行ったところ、IL-6,IL-8,IL-10といった分子が有意に上昇していることを確認している。これまでにこうした患者の血漿中メタボローム測定を行ったところ複数の代謝物において悪液質患者で特有の有意な変化があることを同定した。本研究結果が重篤なサルコペニアの状態である悪液質を評価する上での客観的な指標となるものと考える。
|