研究課題/領域番号 |
20K09539
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
藤田 潤 京都大学, 医学研究科, 客員研究員 (50173430)
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研究分担者 |
赤松 秀輔 京都大学, 医学研究科, 講師 (20767248)
武田 俊一 京都大学, 医学研究科, 教授 (60188191)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アンドロゲン / LNCap / 前立腺癌 / トランスクリプトーム / エンハンサー |
研究実績の概要 |
エキソーム解析技術により前立腺の発癌や去勢抵抗性に関わる遺伝子異常が明らかになっている。今後、全ゲノムの次世代シーケンスにより非コーディング領域にも解析が広がる。ただし非コーディング領域のほとんどをジャンク配列が占めることを考慮すると、非コーディング領域の中から機能配列を選択し、そこに入った変異に焦点をあてて解析する手法を確立しなければならない。本研究の目的は、機能配列の中で、アンドロゲン受容体依存的に活性化される転写制御領域(エンハンサー配列)を網羅的に同定することである。恒常的に活性化されているエンハンサーは従来法(例、ゲノム全体のDNase I hypersensitivity site決定)によって同定されるが、細胞刺激(例、アンドロゲン曝露)後に一過性に活性化されるエンハンサーは従来法で検出できない。我々が採用する手法は、前立腺癌細胞 (LNCap) をアンドロゲン刺激後にRNA抽出し、それをNET-CAGE法によってトランスクリプトーム解析することである。NET-CAGE法は、村川教授により開発され(Nature Genet 2019, PMID: 31477927)、細胞刺激後に一過性に出現するエンハンサーRNA(eRNA)を最高感度で検出できる。eRNA検出は、細胞刺激依存的に転写制御を行うエンハンサーを検出できる唯一の手法であり、かつエンハンサーの位置を正確に同定できる。我々は、5,000以上のエンハンサー配列を新たに同定する。同定されたエンハンサー配列のなかで、発癌遺伝子(例、c-MYC、Cyclin D1)の発現制御に関与するエンハンサーを同定する。同定されたエンハンサーには、前立腺発癌や去勢抵抗性に関わる点変異が濃縮されている。本研究の意義と重要性は、非コーディング領域に存在する発癌と去勢抵抗性に関与する変異を同定できるようになることである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、前立腺癌細胞 (LNCap)をアンドロゲン刺激後にRNA polymerase II (Pol2)が未だ合成中のRNA(nascent RNAと呼ぶ)を抽出し、それをトランスクリプトーム解析する。本研究の成否は、この抽出RNAの品質にかかっている。NET-CAGE法を開発した村川教授の研究室でnascent RNA抽出を行うことにより高品質のRNAを抽出できた。我々は既に、アンドロゲン刺激前と刺激後30分, 60分, 180分, 360分後の野生型LNCap細胞からRNAを精製する実験を3回繰返した(3回繰返し×5点の時間=合計15試料)。我々は、野生型LNCap細胞のみならず、TDP2遺伝子破壊LNCap細胞(Mahmud RA. et al., Genes Cells 2020)でも同様の実験を実施し、合計15試料のnascent RNAを抽出した。そして30 RNA試料を企業(DNAFORM、横浜)に2021年2月23日に送付した。企業は、このRNA試料のトランスクリプトーム解析を実施中であり、2021年4月中には解析結果が戻ってくるはずである。解析結果が戻ってくれば、2ヶ月のコンピューター上の作業で全部のアンドロゲン刺激依存的全eRNAが検出できる。以上の実験の進展から『おおむね順調に進展している』と自己判定した。
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今後の研究の推進方策 |
1. NET-CAGEで同定されたエンハンサーをコンピューター上で解析 1-(1) 細胞増殖に関与するエンハンサーをリストアップ:アンドロゲンが発現誘導させる遺伝子の中で、発癌に関与する遺伝子(例、c-MYC)を転写活性化するエンハンサーを同定。、1-(2) 1-(1)のエンハンサー配列の中にある前立腺癌体細胞変異を全部同定、1-(3) 発癌や去勢抵抗性の原因になりそうな変異の候補を全部リストアップ:細胞増殖に関与するエンハンサーに存在する体細胞変異の中で、その変異が、前立腺癌発症に関連する転写因子(例、c-MYC、ONECUT2、FOXA1)の結合部位であるか否かを調べる。複数の前立腺癌症例で繰返し見つかるか否かも調べる。 2. 細胞増殖に関与するエンハンサー(1-(1)で同定)がアンドロゲンによる増殖刺激に実際に必要か否かを確定:解析したい任意のエンハンサーのguide RNAを、CRISPRiといっしょにLNCapで一過性発現し、アンドロゲンによる増殖刺激効果への影響を解析。 3. TDP2欠損の、アンドロゲン依存的細胞増殖への増強効果の機序を解明:TDP2は、DNA topoisomerase II (TOP2) が作るゲノム切断を修復する酵素である。TOP2が作るゲノム切断は、性ホルモンなどの刺激の直後に多発する。TDP2遺伝子の変異が前立腺癌で多く見つかる。我々は、TDP2が機能欠損するとアンドロゲン依存的な前立腺上皮増殖が大きく増加することを見出した(Mahmud RA. et al., Genes Cells 2020)。我々の作業仮説は『大きく増加する原因はアンドロゲン依存的なエンハンサーの異常活性化による』である。この仮説の是非をeRNAの解析により検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は、野生型LNCap細胞から精製したRNAの15試料(3回繰返し×5点の時間)のみをNET-CAGE法にてトランスクリプトーム解析する予定であった。しかし、前段落の「今後の研究の推進方策」に記載した理由から、TDP2欠損LNCap細胞から精製したRNAもトランスクリプトーム解析することにした。そして野生型細胞のNET-CAGE解析と野生型細胞のNET-CAGE解析を同時にDNAFORM社に発注することにした。同時に発注しなければならない理由は、トランスクリプトーム解析実験において、Deep RNA Sequencingの前段階のRNA library作製の段階において実験ごとにバラツキがあるからである。このバラツキを避ける為に、30 RNA試料をDNAFORM社に同時にRNA library作製してもらう必要があるので、同時に発注しなければならない。当初、野生型細胞(15試料)から抽出したRNAのNET-CAGE解析が2020年度内に終了し費用の支払いが年度内に終了できるはずであった。しかし試料数が30に増加し解析の発注が遅れた結果、2020年度内にDNAFORM社に費用を支払うことができなくなった。その結果、DNAFORM社に費用(残額:586,998円)を来年度に繰り越した。
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