視線検出技術を利用し、眼球運動や認知機能を評価するための映像を見ている間の被験者の視線の動きを定量的に評価することで、低侵襲かつ簡便な高次脳機能障害の診断法が確立されている。前立腺癌に対して、ホルモン療法を行われた患者を対象にしている。個別症例の検査方法としては、視線検出用赤外線カメラが搭載されたモニターに映し出される映像を数分間被験者に眺めてもらい、その間の視線の動きを定量的に追跡する。映像は幾何学模様や人物が映し出され、被験者がどこを見ているかを評価することで記憶力や注意力、空間認知機能を評価した。視線検出カメラは赤外線によって被検者の瞳孔の位置をモニターしており、被験者の頭部の固定などは一切必要ない。一方、前立腺癌に対して、新規抗アンドロゲン剤を含むホルモン療法や抗がん剤の開発は生存率に大きく貢献している。しかし、アンドロゲン除去による副作用により、患者のQOLを大きく損ねる側面もある。テストステロンは狭心症や動脈硬化、肥満、メタボリック症候群、認知症などさまざまな疾患の進展や発症予防に関与しているが、特に認知機能の低下は社会的に重要な問題となりうる。アンドロゲン除去療法の治療の前後、経過期間における視線の動きの障害(眼球運動の速度の低下、注視点の偏り、記憶タスクにおける障害など)の程度を定量化し、被検者の認知機能との相関などを調べた。その結果、アンドロゲン除去療法3か月、6か月、12か月の経過において、視線計測による認知機能の低下は検出できなかった。
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