慢性腎臓病は、新たな国民病と位置づけられる疾患である。腎不全に至った場合の治療としては、透析療法や腎移植などの腎代替療法が挙げられるが解決すべき課題が山積している。本研究は、慢性腎不全への移行段階での病期ステージの進行を抑制して、正常な腎機能へと回復させる新規治療開発を行った。 ラット脂肪組織から採取した間葉系幹細胞を温度応答性培養皿で培養して、ゼラチン繊維基材で細胞をシート状に回収した。これを2枚作製して、細胞同士が接着するように積層した積層型デュアル間葉系幹細胞シート(以下、積層細胞シート)を作製した。一方で、片腎を摘除したラットの残存する腎臓に腎動静脈クランプ下で凍結傷害を与えて腎機能を低下させたモデルを作製した。凍結傷害を与えた腎臓の腎被膜下に積層細胞シートを移植して、腎機能が回復するのか検討した(n=6)。対照群には、無細胞シートを偽移植した(n=7)。 移植後4週間後、対照群では、尿タンパクの増大を示したが、積層細胞シート移植群では、増大しなかった。また、対照群の血中クレアチニンは、経時的な増大を示したが、積層細胞シート移植群では、血中Creの増大が認められず、対照群と比較して有意に低下した。積層細胞シート移植した腎臓では、凍結傷害部位近傍での尿細管上皮細胞の扁平化をともなう尿細管の拡張が対照群よりも減少していた。以上の結果から、積層細胞シート移植によって、腎組織の回復をともなう腎機能障害が改善できることを示唆した。 積層細胞シート移植による治療効果の機序として、血管保護作用やパラクライン効果により腎組織内の微小環境が改善され尿細管拡張などが修復されて、腎機能障害が改善したと考察される。今後、これらの機序を明らかにするとともに、積層細胞シートを利用した慢性腎臓病治療開発を進めていく。
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