研究課題/領域番号 |
20K09568
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
安水 洋太 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (40464854)
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研究分担者 |
小坂 威雄 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (30445407)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 神経内分泌前立腺癌 / クロマチンリモデリング / SWISNF |
研究実績の概要 |
MUC1は上皮細胞の表面に存在する2量体の糖タンパク質で、核内に移行することで、ARやNFkB、βカテニン等といった転写因子を介して癌の進展に関与する。予備的検討としてMUC1とmSWI/SNFクロマチンリモデリング複合体は、前立腺癌の核内で共存することを確認している。今回はMUC1とmSWI/SNFで構成される複合体が前立腺癌の進展に及ぼす意義について検討した。神経内分泌前立腺癌細胞株LNCaP-AIにおいて、mSWI/SNFの構成因子であるBRG1・ARID1Aはいずれも高発現していた。MUC1を抑制するとBRG1・ARID1Aのいずれも発現が抑制された。一方、MUC1の過剰発現は、BRG1・ARID1Aの発現亢進を誘導した。MUC1自体は転写因子ではないので、mSWI/SNFの転写を調整するために、他の転写因子を利用する必要がある。Direct binding assayの結果、MUC1は転写因子E2F1と直接結合することが示された。E2F1の抑制は、BRG1・ARID1Aの発現を抑制した。更にMUC1・E2F1・BRG1の抑制はNOTCH1の発現を抑制した。NOTCH経路は去勢抵抗性前立腺癌が神経内分泌前立腺癌に進展する際のkey pathwayである。またMUC1・E2F1・BRG1の抑制はNANOGの発現を抑制した。NANOGはがん幹細胞関連のタンパクである。これらの結果から、去勢抵抗性前立腺癌が神経内分泌前立腺癌に形質転換する際に、MUC1・E2F1の結合体がmSWI/SNFを誘導し、NOTCH経路の活性化やがん幹細胞能獲得に寄与していることが示唆された。更に研究使用の同意を頂いた余剰臨床検体から神経内分泌前立腺癌のオルガノイドの樹立に成功した。多様性を有する臨床検体を用いて仮説の実証に努める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
去勢抵抗性前立腺癌細胞株であるC4-2B細胞をアンドロゲン除去環境下で長期間培養し、NEPCの性質を有するLNCaP-AIを樹立した。LNCaP-AIではPSA等のAR pathway分子の発現が極端に低下するのに対し、NEPC marker及びMUC1の上昇を認めた。そしてMUC1の抑制は、AR pathway分子の有意な亢進や、Nmyc/BRN2/SOX2/EZH2といったNEPC分化に関与する因子の低下を認めた。MUC1がNEPC分化の一端を担うことが示唆された。 MUC1-NuRD複合体がLuminal breast cancerからBasal breast cancerへの脱分化に及ぼす影響について検討した。MUC1の抑制はNuRD構成因子の発現を抑制し、さらにGATA3等のluminal markerの発現の上昇、ケラチン16等のbasal markerの減弱を引き起こした。同様の結果が、NuRD構成因子の阻害によっても生じ、これらの結果はMUC1とNuRDが複合体を形成し、luminal basal changeに関与していることを示唆した。 MUC1-クロマチンリモデリング因子複合体がNEPC分化に及ぼす作用の解明を試みた。神経内分泌前立腺癌細胞株LNCaP-AIにおいてMCU1はSWI/SNFと核内で結合し、SWI/SNFの構成要素であるBRG1やARID1Aの発現を調整する知見を得た。更にMUC1が直接E2F1に結合し、BRG1・ARID1Aのプロモーター領域で機能し、転写亢進に寄与することを示した。
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今後の研究の推進方策 |
3年目にあたり、MUC1-クロマチンリモデリング因子複合体抑制による抗腫瘍効果の解明及び神経内分泌前立腺癌オルガノイドを用いた研究を更に進めていく。具体的には下記の通りである。 ・MUC1-クロマチンリモデリング因子複合体の抑制とその他の薬剤の併用効果をWST assay法によるcell viabilityのチェックとDirect cell counting法を用いて評価する。薬剤の候補としては、肺小細胞癌(肺神経内分泌癌)の治療薬であるシスプラチン・オラパリブが挙げられる。またMUC1阻害剤としてGO203を用いる。細胞で高い抗腫瘍効果を示す場合は、マウスを用いて同様の結果が得られるかを検討する。 ・臨床組織検体におけるMUC1とクロマチンリモデリング因子の局在について解析する。研究利用が承認された余剰臨床検体からオルガノイドを作成する。オルガノイド作成に関するプロトコールは概ね確立されているが、樹立の効率は高くないので適宜リガンドの調整を行い、よりNEPCに特化したオルガノイド作成プロトコールを作成する。NEPCオルガノイドにおけるMUC1とクロマチンリモデリング因子の局在を免疫組織化学の手法を用いて評価する。この結果はMUC1とクロマチンリモデリング因子が複合体を形成することを裏付けする。またトランスクリプトーム解析を行い、オルガノイド間の共通項と相違点を抽出する。 ・オルガノイドを用いてMUC1-クロマチンリモデリング因子複合体抑制による抗腫瘍効果を評価する。樹立されたオルガノイドにshRNAを導入し、MUC1-クロマチンリモデリング因子抑制の抗腫瘍効果を評価する。評価方法としてWST assay及びDirect cell countingを予定している。十分な抗腫瘍効果が得られる場合はマウスにオルガノイドを移植し、In vivoで効果を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の使用計画として、臨床検体から作成されたNEPCオルガノイドを用いたトランスクリプトーム解析・エクソンシーケンス解析を予定していたが、オルガノイドの樹立が想定以上に難航した。次年度に繰り越しオルガノイドのシークエンス解析を予定する。その他の予定として下記の2つを予定する。 ①MUC1-クロマチンリモデリング因子複合体の抑制とその他の薬剤の併用効果をWST assay法によるcell viabilityのチェックとDirect cell counting法を用いて評価する(In vitro)。 ②オルガノイドを用いてMUC1-クロマチンリモデリング因子複合体抑制による抗腫瘍効果を評価する。
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