MUC1は上皮細胞の表面に存在する2量体の糖タンパク質で、核内に移行することで、ARやNFkB、βカテニン等といった転写因子を介して癌の進展に関与する。予備的検討としてMUC1とmSWI/SNFクロマチンリモデリング複合体は、前立腺癌の核内で共存することを確認している。今回はMUC1とmSWI/SNFで構成される複合体が前立腺癌の進展に及ぼす意義について検討した。神経内分泌前立腺癌細胞株LNCaP-AIにおいて、mSWI/SNFの構成因子であるBRG1・ARID1Aはいずれも高発現していた。MUC1を抑制するとBRG1・ARID1Aのいずれも発現が抑制された。一方、MUC1の過剰発現は、BRG1・ARID1Aの発現亢進を誘導した。MUC1自体は転写因子ではないので、mSWI/SNFの転写を調整するために、他の転写因子を利用する必要がある。Direct binding assayの結果、MUC1は転写因子E2F1と直接結合することが示された。E2F1の抑制は、BRG1・ARID1Aの発現を抑制した。更にMUC1・E2F1・BRG1の抑制はNOTCH1の発現を抑制した。NOTCH経路は去勢抵抗性前立腺癌が神経内分泌前立腺癌に進展する際のkey pathwayである。またMUC1・E2F1・BRG1の抑制はNANOGの発現を抑制した。NANOGはがん幹細胞関連のタンパクである。これらの結果から、去勢抵抗性前立腺癌が神経内分泌前立腺癌に形質転換する際に、MUC1・E2F1の結合体がmSWI/SNFを誘導し、NOTCH経路の活性化やがん幹細胞能獲得に寄与していることが示唆された。更に研究使用の同意を頂いた余剰臨床検体から神経内分泌前立腺癌のオルガノイドの樹立に成功した。多様性を有する臨床検体を用いて仮説の実証に努める。
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