研究課題
腎細胞癌治療におけるimmuno-oncology(IO)薬では有効例と無効例が比較的明瞭に分かれる。完全奏効に至らない場合でも、残存病変への手術などの治療により完全奏効を目指せることも多い。高価な薬剤であり、IO薬単独あるいはIO薬を含めた集学的治療で完全奏効を目指せる症例を見出すバイオマーカーの開発が急務である。我々のこれまでの研究において前立腺癌細胞においてケモカインは自己分泌作用でケモカイン受容体(CCL2-CCR2やCCL5-CCR5経路等)を介して癌の増悪に寄与し、予後を予測するバイオマーカーとなりうることを明らかにしてきた。腎細胞癌でもCCL20-CCR6経路の活性化が転移能を亢進させることを明らかにしている。そこで、まずヒト腎癌細胞株ACHNおよびCaki-1において、CCR2, 5, 6の発現の有無を調べたところ、いずれも強く発現していることが明らかになった。すでに前立腺癌細胞においてこれらの経路を阻害することを確認しているジテルペンを用いて、ケモカインシグナルを抑制することが可能かどうかを調べたところ、濃度依存的にCCR2, 5, 6の発現が抑制された。これらの発現低下とともにACHNおよびCaki-1のアポトーシスが亢進し、遊走能が低下することが明らかとなった。さらにこれらの下流にはSTAT3のリン酸化やAkt/ERKのリン酸化が関与している可能性も示唆された。また、同時にPD-L1の発現も低下させることが明らかとなり、IO薬によってPD-L1およびPD-1のシグナルを抑制すると、これらケモカイン受容体の発現も同時に抑制される可能性が明らかとなった。これらのことから、PD-L1の発現とともに、CCL2-CCR2、CCL5-CCR5、CCL20-CCR6経路の活性化の有無がIO薬の有効性に関与することが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
3年間の予定を100%とした場合、70%程度と考えられる。IO薬のターゲットであるPD-L1の発現とCCL2-CCR2、CCL5-CCR5、CCL20-CCR6経路の活性化の有無が関連していることを明らかにしており、予定されていた実験の中では、大方の実験は順調に進んでいると考えられる。
今後、リンパ球側の因子に関して解析するとともに、候補となった各ケモカイン-ケモカイン受容体経路の機能についても解析を進める予定である。
予定していた抗体を購入していないため残額が生じている。これらをより深いメカニズムの探索のため、サイトカインアレイ等を追加して行う費用に充てる予定である。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
Scientific reports
巻: 12 ページ: 675
10.1038/s41598-020-80302-4.