膀胱内圧測定と同時に実施した外尿道括約筋筋電図(EUS-EMG)にて、脊損(SCI)マウスの下部尿路機能(排尿期)を評価した。野生型脊損(WT-SCI)マウスでは、EUS-EMG活動が膀胱収縮開始直前から活発になり、膀胱収縮が始まると更にEUS-EMG活動が顕著となる。但し、膀胱収縮1回あたりEUS-EMG活動が静止する瞬間があり(外尿道括約筋活動静止期:EUS静止期)、その際に排尿する(7-13回/膀胱収縮)。mGluR1-KOマウスの脊損モデル(KO-SCI)では、WT-SCIマウスに比べEUS静止期が著しく少なかった(4-7回/膀胱収縮)。mGluR5拮抗薬MPEPを腹腔内投与(3 mg/kg)すると、WT-SCIマウスとKO-SCIマウスの両方でEUS静止期が著しく減少した。以上の結果は、代謝型グルタミン酸受容体Group Iに属するmGluR1、及び、mGluR5が膀胱収縮中のEUS静止期に重要な役割を担っていることを示唆している。 次に、WTマウスに脊損を起こした日からin vivo実験までの4週間、LM11A-31(非ペプチドp75NTRリガンド/proNGF 拮抗薬)を連日投与した群と対照群(蒸留水連日投与)を比較した。対照群では、上述のWT-SCIマウスと同じで、EUS静止期を10回/膀胱収縮前後呈していた。他方、LM11A-31投与群では、EUS静止期が0-2回/膀胱収縮しかなく、尿排出は滲み出るだけの僅かな量(15-40μL程度)であった。これは、上述のKO-SCIマウスにMPEPを投与した後の膀胱収縮/外尿道括約筋活動に酷似していた。この結果は、脊損後に生じるアポトーシスの過程でオヌフ核神経細胞内のmGluR1受容体とmGluR5受容体を介した信号伝達経路の不活性化が膀胱外尿道括約筋協調不全を助長している可能性を示唆している。
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