研究課題/領域番号 |
20K09586
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
小島 聡子 帝京大学, 医学部, 准教授 (10345019)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 去勢抵抗性前立腺癌 / 神経内分泌癌 / IGFBP-3 |
研究実績の概要 |
前立腺癌はホルモン感受性癌であるが、悪性度の高い転移を有する前立腺癌(高リスク前立腺癌)は数年のうちにホルモン抵抗性となり、転移を生じ最終的には死に至ることが知られている。ホルモン抵抗性を獲得する機序は様々な説はアンドロゲンレセプターの増幅、上皮間葉転換(EMT: Epithelial Mesenchymal Transition), アンドロゲンの異所性産生、アンドロゲンに対する感受性の増加、がん抑制遺伝子の発現低下、がん遺伝子の発現増加など様々な原因が唱えられているが、いまだに明らかではない。これまで我々はがん抑制遺伝子として機能するmicroRNAに着目し、その標的遺伝子の機能解析を行ってきた。microRNAは転写されい非機能性RNAであるが、さまざまな遺伝子の発現をコントロールしていることが近年明らかになってきた。我々が研究してきたmicroRNAのうち、miR-455-5pの標的遺伝子としてPirin, IGFBP-3, LRP8などががん遺伝子として検出された。データベース上の発現解析より、IGFBP-3の発現が高いものはより予後が悪いことが示された (Molecular Oncology, 13(2):322-337, 2019) 。また、研究社は以前留学先のバンクーバーProstate Centerにおいて、IGFBP3が去勢後に発現が高くなり、ホルモン抵抗性に寄与することを報告した。今回我々は、IGFBP-3が実際の前立腺癌患者において予後因子となりえるか、検討を行った。 ① IGFBP-3の発現を実際の前立腺癌患者の生検組織を用いて評価した。 ② IGFBP-3の血清中の発現をELISAを用いて評価した ③ IGFBP-3の血清中の発現が、ホルモン療法開始前と後で変化するかを観察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度の実験計画として IGFBP-3の発現を実際の前立腺癌患者の生検組織の評価について:神経内分泌癌とそれ以外で発現を調べたが、明らかな発現の差がなく、神経内分泌癌でなくてもIGFBP-3の発現が高いものは、予後が悪いことが示唆された。現在も症例数を追加して研究している。 IGFBP-3の血清中の発現をELISAを用いて評価、IGFBP-3の血清中の発現が、ホルモン療法開始前と後で変化するかについて:ELISAにおけるIGFBP-3の発現量は組織免疫染色の発現量と差があることが分かった。またホルモン療法開始後にIGFBP-3の発現量は増えることが動物実験で示されていたが、今回は症例が少なく、その傾向は明らかではない。現在まではおおむね順調に実験は進んでいる。IGFBP-3の高発現は予後不良の傾向にあることが示唆されるが、予後因子としての可能性については長期間に予後や血清中の発現量を観察することが必要である。また、同じ症例での経時的変化がありえるので今後も症例を増やしてゆく。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度の研究結果から、前立腺癌の高リスク癌においては神経内分泌癌であってもそれ以外でもIGFBP-3の発現が高くなる可能性が示唆された。 2022年度は、さらにその結果を実証するため、実際の前立腺癌の症例数を増やして、系統的にIGFBP-3の発現を観察し、予後因子となりえるかどかを検討する。具体的な実験計画は①転移性前立腺癌、とくにすでに死亡されている症例の臨床組織検体からIGFP-3の発現を観察し、予後因子として有用かどうかを検討する。② 血清中のIGFBP-3の発現がホルモン療法によってどのように推移するかを観察する。③miR-455などの発現との相関関係を明らかにする。④前立腺癌細胞株 C4-2において、アンドロゲン除去と同時に、IGFBP-3を抑制しその増殖能力の変化を測定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
Covid-19の感染蔓延により、海外での学会参加ができず、すべてweb参加となった。本来、旅費として計上するはずであった金額が使用せずに残った形となる。次年度は、血清サンプルの測定のためELIZAに使用する費用、組織免疫染色に用いる抗体費用、および、国内の学会参加、海外のweb参加を行うことに助成金を使用する予定である。
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