研究課題
卵巣癌細胞でのCarbonyl reductase 1 (以下CBR1)蛋白質の高発現 が、癌細胞の増殖・転移を抑制することが報告されている。しかしその機序は不明な点が多い。ヒトCBR1蛋白質を恒常的に過剰発現する細胞(hCBR1過剰発現株)を作成しCBR1の作用機序を解明することを2021年度の目的とした。卵巣がん細胞株(OVCAR-3、SKOV-3)にh CBR1をコードする遺伝子領域を有するプラスミドベクター(pCMV6-AC-GFP-hCBR1)をtransfectionしG418で選別しhCBR1過剰発現株を分離した 。hCBR1過剰発現株、Mock細胞の腫瘍増殖速度 を比較した 。hCBR1過剰発現株の腫瘍増殖が抑制された場合、その細胞内シグナル伝達の変動を調べるために蛋白質を抽出しLC-MS/MSでプロテオーム解析した後、 同定された蛋白に関して パスウェイ解析およびネットワーク解析を行った。hCBR1過剰発現株(OVCAR-3では2種類、SKOV-3では4種類)、Mock細胞(OVCAR-3では3種類、SKOV-3では3種類)を作成した。どちらも野生型をコントロールとした。いずれの細胞株でも、hCBR1過剰発現株は有意に腫瘍増殖が抑制された(p<0.05)。さらにOVCAR-3ではCBR1蛋白質発現量と腫瘍増殖曲線係数との逆相関を認め、この株についてネットワーク解析およびパスウェイ解析を行った。腫瘍制御に関するシグナル変動を複数認め、中でもEIF2シグナルの変動が大きかった。今回、卵巣癌細胞内でCBR1過剰発現により複数の腫瘍制御に関わるシグナルが変動していることが判明しCBR1が腫瘍増殖抑制にいくつかの経路を介して関与している可能性が示唆された。 CBR1蛋白質の腫瘍抑制機序について文献的に考察中である。
2: おおむね順調に進展している
3つの目的のうちの1つは2020年に達成でき、2つの目的は2021年度に達成できた。すなわちCBR1の抗腫瘍作用はアポトーシスの誘導と血管新生因子の不活化のため生じる作用が直接的なものか間接的なものか明確にするためCBR1が細胞内シグナル伝達系のどこに作用するのかプロテオーム解析によってEIF2シグナルの変動によるものであることが明らかとなった。CBR1の腫瘍抑制の作用機序の一端を明らかにできた。卵巣癌組織中のCBR1発現量は予後と相関するのであるが、3つ目の目的である血中のCBR1 DNA量が予後と相関するのか治療効果と相関があるのかを調べ予後予測マーカーとなり得るか検討することを明らかにすることが2022年度の課題である。
卵巣癌組織中のCBR1発現量は予後と相関するのであるが、血中のCBR1 DNA量が予後と相関するのか治療効果と相関があるのかを調べ予後予測マーカーとなり得るか検討すること、3つ目の目的について令和4年度の研究を推進する。そのため、この2年間で蓄積された卵巣癌患者血液検体の解析を行うことになる。
2021年度中からデジタルPCRの測定を行う予定であったが、予定していた卵巣癌患者の血液検体が集まらなかった。コロナ禍の影響で患者数が減ったことが要因として挙げられる。2021年後半から患者が増え、検体数のストックが増えてきたため2022年度には当初予定していたデジタルPCR実験を行うことによって予算執行を完了する予定である。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (4件)
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