研究課題/領域番号 |
20K09590
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
笠原 好之 東北大学, 医学系研究科, 講師 (20511835)
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研究分担者 |
高野 裕治 人間環境大学, 人間環境学部, 教授 (00424317)
請園 正敏 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 精神保健研究所 知的・発達障害研究部, リサーチフェロー (50787778)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 母体免疫活性化 / 胎児発達 / 周産期 / 自閉症スペクトラム障害 |
研究実績の概要 |
妊娠期の炎症による母体免疫の活性化(MIA)が胎児発達に与える影響を検討するために、ハイドロダイナミクス法による妊娠期サイトカイン高発現モデルを用いて、胎児状態を胎児心電図の計測によって検討した。前年度までに、ハイドロダイナミクス法を用いて妊娠12.5日の母体にインターロイキン17a(IL-17a)を高発現させると、胎児の自律神経の活動性が変化することを、胎児心電図の計測から明らかにした。同様の手法で妊娠期に母体のIL-17aを高発現させ、その産子マウスが成育後に社会性の障害や探索行動の変化を示すことを確認し、母体におけるIL-17aの高発現は胎児の将来に対して、自閉症スペクトラム障害(ASD)様の行動障害を引き起こすことを見出した。一方で、妊娠期のウイルス感染や細菌感染を模したMIAモデルを作成し、同様に胎児心電図計測によって胎児状態を検証した。妊娠12.5日の雌マウスに対してウイルス感染を模したPoly ICあるいは細菌感染を模したLPSを投与し、胎児の自律神経の活動性を胎児心電図計測によって評価したところ、母体Poly IC投与群、および母体LPS投与群の双方において、胎児の自律神経の活動性が変化していた。したがって、胎児期の自律神経系の活動性の変化は、MIA時における特徴のひとつであると考えられ、MIAによって引き起こされるASDなどの発症メカニズムの一端である可能性がある。現在は遺伝子解析、行動解析、組織解析などと組み合わせ、MIA時の変化の詳細とASD病態の機序の解明を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通りに実験を遂行し、従来の研究手法では不可能であった胎児期の自律神経活動性の変化について興味深いデータを得ることができている。複数のMIAモデルの比較、将来のASD行動異常の確認を進めており、MIAが引き起こす胎児状態の変化と生後予後の検討を進めており、順調に研究が進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は遺伝子解析、行動解析、組織学的解析などを進め、MIAによる胎児発達への影響に関して包括的な理解を進めるための研究を行う。また、本研究結果は、胎児期にMIAによって引き起こされるASDの兆候を自律神経活動性の変化という形で掴むことができることを示唆しているが、これにより胎児期と言った超早期からの介入によるASD治療戦略を構築することができると考えられる。その観点から、胎児期の自律神経活動性を指標として、胎児治療の研究と奏効機序の解明を進め、早期診断、早期治療に資する病態メカニズムの解明を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの流行により現地での会議や学会参加ができず、旅費の執行ができなかったこと、および研究計画が順調に進んだことで条件検討などにかかる経費を削減できたため、次年度使用額が生じた。次年度において、マウスの遺伝子解析や行動試験、組織学的解析と、学会参加、成果報告にかかる費用として使用する予定である。
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