羊水中に存在する肺サーファクタントと胎脂の体内動態を検証するため、妊娠ウサギ羊水内の肺サーファクタントミセルの超微細構造解析を試みた。セコバルビタールナトリウム静脈麻酔下に妊娠30日目の妊娠ウサギ(Japanese white rabbit種)から羊水を計3 ml採取した。採取した羊水は、9200gで20分間遠心分離した後、0.1μm孔径のシリンジフィルターでろ過し、検討に供した。 ミセルの有無は、各標本を風乾させた後にネガティブ染色を施し、透過型電子顕微鏡(H-7650;日立ハイテクノロジーズ)を用いて観察した。ウサギ羊水中には直径30ないし50 nmの球状もしくは環状のミセル分子が存在しており、ネガティブ染色法を用いることにより観察することが可能であった。 次いで、上述の検体処理を施したウサギ羊水を、-175℃まで急速凍結した後、クライオ透過型電子顕微鏡(JEM-2200FS; 日本電子)を用いて観察した。JEM-2200FSは理論上直径0.2 nm程度の粒子を検出できる分解能を持っている。令和2年度に肺サーファクタント製剤であるサーファクテン(田辺三菱製薬)を解析した際は、親水基を外側に、親油基を内側に向けたミセル分子の構造を描出することが出来た。一方、ウサギ羊水中には様々な夾雑物が含まれているため、ミセル分子の同定には難渋したが、サーファクテンが形成したミセルと同等の構造を有する分子を、1粒子のみではあったが検出することが出来た。
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