研究課題/領域番号 |
20K09596
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
岡下 修己 大阪大学, 生命機能研究科, 助教 (10757933)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 体外受精 / 体外培養 / 性決定 / エピゲノム |
研究実績の概要 |
ほ乳類の性は胎児期の生殖腺に性決定遺伝子Sryが発現するか否かで決定し、Sryの発現によりその個体は雄へと誘導される。ヒストン脱メチル化酵素Jmjd1aはSryの発現を正に制御しており、自然交配により誕生したXY型Jmjd1a欠損マウスは、Sryの発現が雄化に必要な発現量の閾値まで低下しており雌雄の中間的な表現型を示す。一方、このマウスを体外受精により作製すると、雌雄のバランスが雌の方へと傾き、全個体が雌への完全な性転換を引き起こしていた。この結果は、受精卵・初期胚の体外受精/培養が性決定に影響を及ぼす可能性を示していた。 体外受精/培養により影響を受けるエピゲノム修飾を解析したところ、体外受精後の2細胞期胚におけるSry遺伝子座のDNAメチル化が、自然交配で産まれた2細胞期胚に比べ優位に高くなっていた。この結果は、受精卵・初期胚の体外受精/培養がSry遺伝子座の高メチル化を引き起こし性決定に影響を及ぼす可能性を示していた。そこで、体外受精により生じたSry遺伝子座のメチル化異常をエピゲノム編集及び培養液への薬剤投与により修正できるのか試みた。 Tet酵素のDNA脱メチル化機能に着目し、遺伝子切断不活性型dCas9にTet酵素の脱メチル化活性領域(CD)を結合させたdCas9-TetCDのmRNAを作成し、Sry遺伝子座に誘導するgRNAと共にエレクトロポレーション法を用いて受精卵に導入した結果、体外受精を行ったにも関わらず性転換を起こさないXY型Jmjd1a欠損マウスが観察された。更にJmjd1aヘテロ欠損マウスの精子と卵を用いて、DNA脱メチル化誘導剤RG108を添加した培養液中で受精及び初期胚の培養を行ったところ、同様に性転換を起こさないXY型Jmjd1a欠損マウスが観察された。これらの結果は、体外受精/培養期間中おけるSry遺伝子座のDNAメチル化の上昇が性決定に影響を与えることを裏付けていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一つの大きなテーマであるエピゲノム編集技術・薬剤投与を用いた体外培養によるエピゲノム変異克服への挑戦に成功した。更に、受精卵・初期胚の体外受精/培養期間中に性決定に影響を及ぼす新たな要因も明らかになってきている。
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今後の研究の推進方策 |
胎児性決定に影響を与える環境因子の解明を行う。その1つは体外受精用培養液・胚培養液であり、体外受精用培養液または胚培養液から各々を構成する成分の内1つを過剰投与または欠損させ、その培養液内で受精または胚発生を行う。成分を欠損させることで受精率・胚発生率が著しく低下する場合は濃度を半分程度に減少させるなどして対応する。以上の条件で受精卵を2細胞期胚まで培養し、Sry遺伝子座のDNAメチル化状態をバイサルファイトシーケンシング法で解析することでエピゲノム変異を引き起こす原因成分のスクリーニングを行う。過剰投与または欠損することでSry遺伝子座のDNAメチル化状態に影響を与えた成分に関しては、その成分を過剰投与または欠損した培養液を用いて作製したJmjd1a欠損胚(2細胞期)を仮親に移植し、既存の培養液で受精・胚培養を行った場合に比べ性転換の表現型が促進またはレスキューされるのか胎児期及び生体での観察を行う。胎児期の性転換の比率は免疫科学的解析により定量する。Jmjd1a欠損マウスの生殖腺は雌雄の性腺 体細胞が混在したキメラ状になる。そこで、生殖腺の組織切片を抗Sox9抗体(雄生殖腺体細胞マーカー)及び抗Foxl2抗体(雌生殖腺体細胞マーカー)を用いて免疫組織染色を行い、Sox9陽性細胞及びFoxl2陽性細胞の数をカウントし比率を算出する。以上により、胎児性決定に影響を与える培地成分を特定する。また、胎児性決定に影響を与える環境要因として、酸素濃度や精子の加齢も影響を及ぼす可能性が示されている。これらの要因に関しても上記の方法を用いて解析を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定より研究の進展があったため経費を抑えることができた。次年度は次世代シーケンサーを用いた大規模な解析を行うことでより研究結果の質を高めたい。
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