研究課題/領域番号 |
20K09603
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
島田 勝 横浜市立大学, 医学部, 准教授 (40301452)
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研究分担者 |
山下 暁朗 横浜市立大学, 医学研究科, 客員教授 (20405020) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | HPV / 感染 / 細胞必須因子 |
研究実績の概要 |
ヒトパピローマウイルス(HPV)は子宮頸がんの原因ウイルスである。現在のワクチンは子宮頸がんに対する予防が完全にできていない、また、治療薬も開発されていない。そのため、次世代のHPVに対する治療・予防法が求められている。本研究計画では、以下の3つの方法を用いてHPV感染に関わる細胞因子の網羅的探索を行う。 1.HPV感染における新規同定された細胞受容体候補であるHPV-BP1の役割を詳細に解析することにより、HPVの感染過程の解明を行う。更に、HPV-BP1に対する中和抗体の作製によりHPV感染の予防法の開発を試みる。 2.タグ付きHPV遺伝子産物を細胞に導入し、質量分析法でHPVと結合する細胞因子を網羅的に同定、解析することによりHPVの感染過程、特に発がんメカニズムを解明し、HPV感染の治療法を検討する。 3.CRISPR/Cas9ゲノム編集技術によるHPV感染に関わる必須な細胞因子を同定し、HPV感染に対する次世代治療・予防法の開発を検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.質量分析法でHPVと結合する細胞因子を網羅的に同定、解析 我々はタグ付きHPV遺伝子産物を細胞に導入し、網羅的な解析によってAIF(apoptosis-inducing factor)はHPVとの結合細胞因子であることを見い出した。質量分析では、HPV E6の結合細胞ペプチドにAIFのペプチドが高く検出された。更なるin vitroで検討すると、High risk HPV E6だけはAIFのFDAドメンと細胞質で結合し、更にカスパーゼ非依存性経路ではAIFの分解によって、クロマチンの分解を抑制し、HPV感染細胞を癌化させることを明らかにした。しかし、low risk HPV E6はAIFと結合するが、AIFの分解およびクロマチンの分解抑制は認められなかった。その成果は査読科学雑誌であるScientific Reportsに発表された。 2.HPVの感染過程の解明:CRISPR/Cas9ゲノム編集技術の応用 全ヒトゲノムに対するsgRNAライブラリーを含むCRISPRプラスミドを作製し、Cas9を発現するプラスミドおよびVSV envelopeを発現するプラスミドと共にPEI法で293T細胞に導入し、細胞上清からsgRNAライブラリーを発現するレンチウイルスを回収した。そのレンチウイルスを293T細胞に感染させ、抗生物質での選択による単独遺伝子欠損細胞ライブラリーの作製に成功した。 他方、チミジンキナ-ゼ遺伝子(TK)を発現するプラスミドを構築し、そのプラスミド、HPV L1,HPV L2を発現するプラスミドと共にLipofectamine 2000で293T細胞に導入した。その細胞で生産された組換えHPV粒子を超遠心法で精製し、感染用に保存している。
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今後の研究の推進方策 |
1.HPV受容体候補であるHPV-BP1のHPV感染過程における機能解析: HPV-BP1の変異体、欠損細胞などを用いてHPVとの結合、感染などにおける機能を検討する。さらに、この分子に対する中和抗体の作製を行い、HPV感染の予防法の開発を試みる。 2.質量分析法でHPVと結合する細胞因子を網羅的に同定、解析:本研究ではHPV E6と特異的な結合細胞因子は35個、HPV E7とは80個が同定された。それらの因子におけるHPVの細胞感染や発現との関係を更に詳しく解析する。 3.HPVの感染過程の解明:CRISPR/Cas9ゲノム編集技術の応用:単独遺伝子欠損細胞ライブラリーをTK遺伝子発現HPV粒子で感染させ、ガンシクロビルでHPVの感染に対する耐性細胞を選択する。生き残った細胞ゲノムを抽出し、横浜市立大学先端医科学研究センタ-・ゲノム解析室の協力の下、次世代シーケンサーで遺伝子解析によるHPV細胞感染に必須な遺伝子を同定する。 4.HPVに対する次世代予防・治療法の開発:上述した解析が順調に推移し、HPV感染発がんに関連する新規細胞因子が同定された場合、その機能をsiRNAを含む阻害剤により抑制することや、プラスミドベクターを用いた高発現により増強し、HPVの細胞への感染阻害およびHPVが感染している細胞のアポトーシス誘導について検討を行う。この解析により、HPV感染の予防・治療法の開発の可能性を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
学会の中止や延期のため、旅費や学会参加費が不要であった。 CRISPR/Cas9ゲノム編集技術で、HPV感染における細胞必須因子のゲノム解析に使用する試薬、培地などの購入のため次年度の経費を計上する。
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