研究実績の概要 |
帝王切開瘢痕症候群(Cesarean scar syndrome; CSS)における病態生理の解明を行うために、CSS患者の帝王切開瘢痕部(陥凹部)を摘出した組織を用いて検討を行った。比較対象として良性疾患により子宮全摘術を受けた帝王切開既往のある女性の陥凹部をcontrolとした。その結果、CSSの陥凹部表面には子宮内膜は有意に少なく、陥凹部子宮筋層内では有意に異所性子宮内膜が多いことを見出した。また、CD3,CD20,CD68,トリプターゼ陽性細胞数はCSS症例で有意に少なく、CD138陽性細胞は有意に多かった。このことはCSS症例では陥凹部における正常子宮内膜が欠損し、慢性の炎症が惹起されていることを示す結果となった。さらに、CSS症例の子宮内腔では慢性子宮内膜炎が、一般不妊集団と比較しても有意に発生し、炎症性サイトカインも帝王切開既往のある一般女性と比較して有意に高値であることを明らかにした。これらはCSS患者が陥凹部のみならず子宮腔内においても慢性の炎症状態であることを意味し、これらがCSSにおける妊孕能低下の背景にあることをはじめて明らかにした。 また、CSSの治療に関しても腹腔鏡手術、子宮鏡手術それぞれに内視鏡手術を積極的に行った。続発性不妊症を主訴とする患者の術後妊娠率は子宮鏡で約7割、腹腔鏡で約6割であった。それぞれの鏡視下手術の適応が不明であったが、我々は臨床データに基づき、残存子宮筋層厚が2.2mm以上を子宮鏡手術の適応とすべきであると誌上発表した。予防法の確立については帝王切開における創部の縫合方法を単結紮2層縫合および連続2層縫合による無作為前向き試験の症例登録を終了し解析待ちの状態である。またこれらの背景を検討するためにサルを用いた縫合研究においては、造影MRIを用いた評価系を確立した。今後順次研究を継続していく予定である。
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