本研究の目的は、染色体高次構造調節因子 CTCF の変異により、類内膜性子宮体癌のがん化が引き起こされる機序を明らかにすることである。 CTCF はインスレーターなど、ゲノムDNA上の遺伝子発現調節領域に結合するタンパク質であり、ループ構造などの転写ドメインを形成し、多数の遺伝子の発現調節に重要な役割を果たしている。CTCF の変異は子宮体癌を含む数種のがん種で報告されており、ハプロ不全性を示す腫瘍抑制遺伝子であることが知られているが、そのがん化における役割は不明である。類内膜性子宮体癌ではエストロゲンシグナルがその増殖に重要な役割を果たしていることが知られているが、申請者らはCTCF に変異を有する子宮体癌では、エストロゲン下流遺伝子の発現が低下していることを見出した。そこで、本研究ではCTCFの下流因子を、特にエストロゲンシグナルに注目して探索した。 2022年度は、CTCF/Cohesin 結合領域および転写因子結合領域のメチル化の状態を、2020年度および2021年度に開発した、DNAメチロームにおける生物学的解釈のための新しい方法論 Methyl-ssRSEA を用いて解析した。CTCF変異型および野生型の腫瘍検体で比較したところ、CTCFに変異を有する子宮体癌において、CTCF/Cohesin 結合領域とESR1、FOXA2 等の転写因子結合領域のメチル化が亢進していることが明らかとなり、クロマチン構造制御の異常を伴ったエストロゲンを含む性ホルモン受容体による転写制御の異常が示唆された。
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