研究課題
婦人科悪性腫瘍に特徴的な進展様式の一つである腹膜播種は、がん細胞に加え、本来なら恒常性維持に関わる細胞(腹膜中皮細胞、リンパ球、マクロファージ)が変化し、難治性・治療抵抗性の基盤であるがん微小環境を形成する。特に、腫瘍浸潤リンパ球(tumor-infiltrating T-cell: TIL)は、がんの進展に寄与することが示唆されており、TILをターゲットにしたがん免疫研究が盛んに進められている。中でも、腫瘍反応性T細胞の有する抗腫瘍効果は新たな細胞療法として注目されている。一方、ヒト進行卵巣がん患者の腹腔内環境は、高度に免疫抑制にあることが報告されており、その効果を十分に発揮できていないことが推察される。そこで、このような免疫抑制状態にあるT細胞が本来の抗腫瘍効果を発揮することが可能となれば、固形腫瘍に対する細胞治療開発のブレイクスルーとなりうる。これまでの研究から、プラズマ活性液は、細胞傷害効果に加え、細胞を活性化するbiphasicな効果を有することも明らかにされており、本研究において、直接的ながん細胞への殺傷効果に加え、がん微小環境の構成細胞の一つであるT細胞に対し、その抗腫瘍効果を効率よく機能させることができるかどうかについて検討を行った。我々は、ヒト卵巣がん患者から採取した腹水が、健常人由来CD8陽性T細胞の活性化を顕著に抑制することを見出している。そこで、プラズマ活性液が、腹水により活性が抑制されたT細胞の機能を回復できないかどうかを検討したところ、ある条件のプラズマ活性液処理を行ったT細胞において、腹水暴露による活性抑制が解除されることが明らかとなった。この効果は、腫瘍反応性T細胞や、キメラ抗原受容体遺伝子改変T細胞(CAR-T細胞)などが、ヒト卵巣がん患者腹腔内においても活性化を持続させ、細胞治療による効果向上につながることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
臨床サンプル等の準備が整い、解析が順調に進んでいる。
本研究課題において、プラズマ活性液が、がん微小環境を構成する細胞に対し抗腫瘍効果を誘導する可能性を、昨年度のマクロファージに続き、T細胞においても示し、がん細胞に対する直接的な効果のみならず、その環境に対しても効果を有することを示唆した。特に、卵巣がんによるがん性腹膜炎をおこした腹腔内環境において、T細胞が本来の抗腫瘍効果を発揮できない著しい免疫抑制環境であることが明らかとなった。その環境下において、T細胞の本来の機能を維持し続けることができるような新たな技術が開発できれば、固形腫瘍に対するTILやCAR-T療法の実用化に一歩近づく。次年度以降は、免疫抑制状態にあるT細胞に対するプラズマ活性液の効果についてさらに詳細な解析を行い、効果とそのメカニズム解明、ならびに生体内での細胞治療の効果向上の評価を行い、プラズマ活性液によるがん免疫応答への有用性について証明していく。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件)
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