研究課題/領域番号 |
20K09644
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
杉本 潤 広島大学, 医系科学研究科(医), 助教 (10315476)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | サプレシン / 内在性レトロウイルス / 妊娠高血圧症候群 |
研究実績の概要 |
ヒトの胎盤では、細胞融合を伴う合胞体栄養膜細胞の形成が必須である。この細胞融合の過程には、内在性レトロウイルス由来で促進的な働きをするシンシチンタンパクと、我々が初めて報告した細胞融合を抑制的に調節するサプレシンタンパクの関与が重要であると考えられている。本研究では、このサプレシンタンパクの機能異常と胎盤形成不全を伴う疾患発症との関わりを明らかにしようと考えた。具体的には、妊娠の成立期で機能異常が示唆される不育症・不妊症、さらに胎盤形成初期の異常が疑われる妊娠高血圧症候群・胎児発育不全の発症原因に関してサプレシンタンパクの関与を明らかにすることを目的とした。ここで、サプレシンタンパクの発現と胎盤形成との関わりを明らかにするため、正常及び病的妊娠における母体血中の分泌型サプレシンのタンパク動態をELISA法により検証した。 サプレシンタンパクは、正常妊娠由来の母体血清を用いたELISA解析の結果、妊娠週数依存的なタンパクの上昇が認められた。サプレシンは妊娠期間を通して発現が上昇することが明らかとなった。一方、胎盤形成不全を伴う妊娠高血圧症候群、胎児発育不全の母体血清中では、正常妊婦に比べサプレシンタンパクの発現が有意に変化していた。以上のことから、胎盤形成不全を伴う病的妊娠の胎盤及び母体血中では、正常妊婦に比べサプレシンタンパクの発現が増加もしくは低下しており、これらの変化が各種疾患発症の原因になっている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、免疫組織染色により、サプレシンの胎盤内での局在を検証した。また、サプレシン特異的モノクローナル抗体を用いたサンドイッチELISA法を開発し、正常または胎盤形成不全を伴う病的妊娠における母体血中のサプレシンタンパク濃度を定量解析した。サプレシンタンパクは、未融合の単核細胞(栄養膜細胞, セルカラム, 細胞外栄養膜細胞(EVT))、さらに母体らせん動脈内に浸潤したEVT細胞で強く発現していた。また、現段階では、集められたサンプル数は多くはないが、これらサンプルを用いた予備実験では、早期発症かつ重症型の妊娠高血圧腎症(PE)でSUPYNタンパクの発現に差が認められた。
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今後の研究の推進方策 |
現在、広島大学病院、ならびに関連病院の協力を得て、妊娠高血圧症候群が疑われる早期の妊婦から血漿サンプルを収集している。(胎児発育不全を伴う妊婦も最終的に含まれると考えられる)現段階では、集められたサンプル数は多くはないが、これらサンプルを用いた予備実験では、早期発症かつ重症型の妊娠高血圧腎症(PE)でSUPYNタンパクの発現に差が認められている。今後、サンプル収集を拡大し、より大規模な今回の調査と、より詳細な患者情報を基にした精査により、SUPYNタンパクと疾患発症原因との関連が明らかになる可能性がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度ではおおよそ予定通り必要な機器と消耗品を購入したが、最終的に未使用の助成金が生じた。必要な消耗品の購入には金額が不足したため、次年度の交付金と合算することにより消耗品を購入しようと計画している。
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