研究課題/領域番号 |
20K09649
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研究機関 | 福岡国際医療福祉大学 |
研究代表者 |
江本 精 福岡国際医療福祉大学, 看護学部, 教授 (80258540)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | がん血管新生 / がん幹細胞 / ナノキャリア / ドラッグデリバリーシステム / アザスピレン / セラミックス微小球 / 子宮癌肉腫 / 腫瘍血管 |
研究実績の概要 |
固形がんの多くは未だに特約された治療法は確立されておらず、がん死は先進国の死因の第一位のままである。特に我が国では数種の悪性腫瘍の増加傾向に抑制の兆しは見えてない。近年、がん化学療法の大きなエポックとなったのは腫瘍が誘導する血管新生であり、本研究課題に至るまで我々は多くの研究成果を報告してきた。特にフマジリン誘導体はVEGFを抑制して血管新生阻害作用を発現することを数種の実験系で報告した(Emoto M. Cancer Sci 2007, 2010, 2011, 他)。さらに同物質と類似する糸状菌Neosartorya sp.が生産するAzaspireneの血管新生抑制作用は、我々の予測以上に高度であった(Org Lett 2002)ことを踏まえ、AzaspireneがVEGFが誘導するRaf-MEK-ERK経路の活性化を抑制することを発見した。そして、早稲田大学先進理工学部との共同研究により、ラセミ化させたAzaspireneの精製に初めて成功、その抗腫瘍効果を報告した(Anticancer Res 2015)。ヒト子宮癌肉腫のがん幹細胞が作り出す異質的な腫瘍血管に対してラセミ化させたAzaspireneが同天然体と同等以上の血管新生阻害作用を有することを報告した(J Org Chem 2018)。現在さらなる効力をもたらすAzaspireneの精製に努めている。 世界的にも希少な高度VEGF産生株であるヒト子宮癌肉腫FU-MMT-1株(Emoto M. Cancer 1992, 1993)に対してAzaspireneをを使用する意義は高い。さらに、明治大学先端科学技術研究所とのコラボレーションにおいて、FU-MMT-1株がん幹細胞が作り出すheterogenicな腫瘍血管に対して、セラミックス微小球DDSにAzaspireneが担持できるよう基礎研究を行ってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
総括的に、世界の経済や科学文化交流を大きく停滞させた感染症パンデミックによるコロナ(COVID-19)禍が、本研究遂行においても長期間の悪影響を与えているのは否めない。ここ3年間、研究者間の人的交流やプロダクツの情報交換的作業は大きく停滞した状況にある。 各論的には、これまでに行ってきた癌幹細胞的腫瘍である子宮癌肉腫の性状分析、とくに癌血管新生のターゲット遺伝子探索作業の停滞である。人体の腫瘍の中でも最も悪性度が高い腫瘍の一つである子宮癌肉腫は、低分化型を含めた子宮体癌と比較して、25種のmiRNAの発現量が上昇し、24種のmiRNAの発現量の低下が認められたことを本課題の分子生物学的前提事項とした。 がん幹細胞的腫瘍であることが判明した(Choijamtsu B, Emoto M. Stem Cells 2011)本腫瘍の血管新生の基盤は、VEGFとアンジオポエチンの高発現にある(Emoto M. Gynecol Oncol 2003)。これらの予備的成果を踏まえて、子宮癌肉腫幹細胞と血管ニッチとのパスウェイを明らかにすれば、同エリアを制御・破壊する新たな治療戦略が構築できるはずであり、それは他の固形がんの治療戦略にも重要な情報を与える可能性を秘めている。 現在、FU-MMT株を用いて、本腫瘍の幹細胞血管ニッチの遺伝子制御に関する精密なパスウェイ検索を進めているのだが、実験系によって予想以上にバリエーションがあり、遺伝子発現の交雑性の評価に時間がかかっている状況である。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き、FU-MMT株を用いた子宮癌肉腫の血管新生ターゲット遺伝子検索の推進を当面の課題とする。予想以上に実験的難作業となっているのは、本腫瘍の幹細胞血管ニッチの遺伝子制御に関してのパスウェイ検索での遺伝子発現の交雑性である。 状況によっては、FU-MMT株での癌幹細胞集団の絞り込みを再検討する必要があると感じている。コロナ禍の影響が長引いている状況にあるので、多施設との共同作業を復活させながら複数の解析レベルで子宮癌肉腫幹細胞と血管ニッチとのパスウェイを明らかにしていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
世界的パンデミックになった新コロナ(COVID-19)感染症により、物品購入や共同研究の遂行が大きく停滞しているため、次年度繰越額が発生した。また、実験系の交雑性により、成果評価が停滞していることも一因である。次年度は物品購入や人的交流を復活させ、本課題に予定した研究項目の実践をより一層推進する予定である。
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