研究課題/領域番号 |
20K09652
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
小林 佑介 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (10439763)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | スタチン / 細胞増殖抑制 / HDRA |
研究実績の概要 |
①スタチン製剤の細胞増殖抑制効果に関わる分子生物学的特性の探索 細胞増殖抑制効果に関わる病理・分子生物学的特性を明らかとするべく、既存卵巣癌細胞株10種を用いてスタチン投与下の細胞生存率を測定した。シンバスタチン10uM添加72時間後の細胞生存率は、RMUG-S; 83.5±2.3%、2008; 77.2±3.1%、MCAS 54.6±1.6%、JHOM1; 53.3±5.7%、OVISE; 37.8±1.8%、RMG-1; 31.8±1.3%、A2780; 28.5±4.9%、TOV-21G; 28.3±10.5%、ES2; 24.6±9.2%、OVSAHO; 18.7±2.0%であり、奏効しづらい細胞株から奏効しやすい細胞株まで差があり、特に漿液性癌そして明細胞癌細胞株でスタチンが奏効していることが明らかとなった。 ②ヒト臨床検体を用いたスタチン製剤の奏効確認と奏効に関わる臨床病理学的因子の検討 慶應義塾大学医学部倫理委員会の承認のもと、卵巣癌患者の手術中に原発巣より腫瘍検体を採取し、Histoculture Drug Response Assay(HDRA) によりシンバスタチン100uM/250uM/500uMを、卵巣癌標準治療薬剤であるパクリタキセル40μg/ml、カルボプラチン30μg/mlと比較検討した。実際の臨床検体においてもスタチンは特に漿液性癌と明細胞癌に奏効することが分かり、パクリタキセルやカルボプラチンと比較して遜色のない数字を示している症例も見られた。 ③次世代統合病理・遺伝子診断システムPleSSision-Rapid検査と慶應婦人科バイオバンクを用いたスタチン製剤の奏効に関わる分子生物学的特性の解明 上述の研究計画②で収集した腫瘍検体をPleSSision-Rapid検査に提出し遺伝子変異の有無につき解析を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
社会的状況もあり、臨床検体のサンプル収集にやや遅れが見られていたが、最近ではまた収集ペースが回復しており次年度は順調に推移することが期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
①スタチン製剤の細胞増殖抑制効果に関わる分子生物学的特性の探索 既存卵巣癌細胞株10種のシンバスタチン投与下の細胞増殖抑制率は測定が終了したため、次にNOVCシリーズ(Ascites-derived ovarian cancer cell lines)を用いてIC50値を測定に移行し、既存卵巣癌細胞株とNOVCシリーズを奏効細胞株群と非奏効細胞株群とに分類する。上述の細胞株群全てにマイクロアレイ解析を行い、奏効細胞株群と非奏効細胞株群との間で有意に発現が変化している遺伝子、パスウェイを明らかにする。以上の検討によりスタチン製剤の細胞増殖抑制効果に関わる分子生物学的特性を抽出する。 ②ヒト臨床検体を用いたスタチン製剤の奏効確認と奏効に関わる臨床病理学的因子の検討 引き続き臨床検体を収集し、Histoculture Drug Response Assay(HDRA)によりシンバスタチン、パクリタキセル、カルボプラチンの抑制率(Inhibition index)を算出する。以上の評価法によりヒト卵巣癌検体にスタチン製剤が奏効するかを明らかとする。さらに抑制率の結果から、奏効症例と非奏効症例に分類し、両群間の臨床病理学的背景を比較検討し有意に差のある因子を抽出する。 ③次世代統合病理・遺伝子診断システムPleSSision-Rapid検査と慶應婦人科バイオバンクを用いたスタチン製剤の奏効に関わる分子生物学的特性の解明 上述の研究計画②で明らかとなった奏効症例と非奏効症例との間で、PleSSision-Rapid検査で得られた遺伝子変異の結果を比較検討し、スタチン製剤の奏効に関わる遺伝子変異を抽出する。さらに、その抽出された変異遺伝子と、研究計画①で得られたin vitroにおけるマイクロアレイ結果を統合し、スタチン製剤の奏効に関わる分子生物学的特性とその関与遺伝子を同定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
臨床検体の収集にやや遅れが見られたため、その検体を用いたHDRA検査に関わる費用分が予定より少なくなった。次年度は臨床検体収集ペースの回復が期待されるためHDRA検査の継続を実施するとともに、マイクロアレイ解析なども並行して行っていく。
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