研究課題/領域番号 |
20K09652
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
小林 佑介 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (10439763)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | スタチン / 細胞増殖抑制 / 奏効予測マーカー |
研究実績の概要 |
①スタチン製剤の細胞増殖抑制効果に関わる分子生物学的特性の探索 細胞増殖抑制効果に関わる病理・分子生物学的特性を明らかとするべく、NOVCシリーズ(Ascites-derived ovarian cancer cell lines)のシンバスタチン投与下の細胞増殖抑制率を測定した。その結果、すでに評価済みの既存卵巣癌細胞株11種類の結果と同様に奏効群と非奏効群に分類できることが示された。そこで, スタチンの奏効に関わる遺伝子を同定するべく、既存卵巣癌細胞株11種類とヒト卵巣癌腹水由来細胞株6種類、合計17細胞株を、スタチン投与後の細胞生存率より奏効群と非奏効群に分類した。この全細胞株にマイクロアレイ解析をかけて遺伝子発現とスタチン投与による細胞生存率からピアソンの積率相関係数を算出して検討し、スタチンの奏効に関与している可能性のある遺伝子群を抽出した。 ②ヒト臨床検体を用いたスタチン製剤の奏効確認と奏効に関わる臨床病理学的因子の検討 引き続き臨床検体を収集し、Histoculture Drug Response Assay(HDRA)によりシンバスタチン、パクリタキセル、カルボプラチンの抑制率(Inhibition index)を算出した。20症例のデータを収集しており、抑制率の中央値はシンバスタチン(100uM/mL) 49.1%(6.0%-77.7%)、パクリタキセル(40μg/mL) 74.4%(34.2%-86.3%)、カルボプラチン(30μg/mL) 36.1%(11.2%-62.9%)であり、シンバスタチンの抑制率はパクリタキセルより低いもののカルボプラチンより高く、臨床検体でもシンバスタチンが奏効することが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
既存卵巣癌細胞株11種類とヒト卵巣癌腹水由来細胞株6種類、合計17細胞株にマイクロアレイ解析をかけて遺伝子発現とスタチン投与による細胞生存率からピアソンの積率相関係数を算出することで、スタチンの奏効に関与している可能性のある遺伝子群を抽出できている。また、臨床検体でもHDRA法によりシンバスタチンが奏効することを明らかにできており、本研究の目的であるスタチンの奏効に関わる卵巣癌の臨床病理・分子生物学的特性の解明が進んでいるといえる。一方で、次世代統合病理・遺伝子診断システムPleSSision-Rapid検査で得られた遺伝子変異の結果を奏効症例と非奏効症例との間で比較検討するところまでは至っておらずこの点は今後至急改善すべき点といえる。
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今後の研究の推進方策 |
①スタチン製剤の細胞増殖抑制効果に関わる分子生物学的特性の探索 既存卵巣癌細胞株とNOVCシリーズにおいて得られたピアソンの積率相関係数から抽出された遺伝子群から候補遺伝子を選択、バリデーションを行い、スタチン奏効の予測マーカーを樹立することで、スタチン製剤の細胞増殖抑制効果に関わる分子生物学的特性を明らかとする。 ②ヒト臨床検体を用いたスタチン製剤の奏効確認と奏効に関わる臨床病理学的因子の検討 HDRA法によりデータの得られた20症例を奏効症例と非奏効症例に分類し、両群間の臨床病理学的背景を比較検討し有意に差のある因子を抽出する。 ③次世代統合病理・遺伝子診断システムPleSSision-Rapid検査と慶應婦人科バイオバンクを用いたスタチン製剤の奏効に関わる分子生物学的特性の解明 上述の研究計画②で明らかとなった奏効症例と非奏効症例との間で、PleSSision-Rapid検査で得られた遺伝子変異の結果を比較検討し、スタチン製剤の奏効に関わる遺伝子変異を抽出する。さらに、その抽出された変異遺伝子と、研究計画①で得られたin vitroにおけるマイクロアレイ結果を統合し、スタチン製剤の奏効に関わる分子生物学的特性とその関与遺伝子を同定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額2900円が発生しているがその金額差異はわずかであり、2022年度研究計画内で使用する。
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