妊娠中の児娩出前に胎盤が剥離する常位胎盤早期剥離(早剥)は、出生児の脳性麻痺の原因として最多であるばかりか、早剥に子宮内胎児死亡を併発した病態では、分娩時に血管内凝固症候群(DIC)となることで大量出血の原因にもなり、ときに妊産婦死亡の原因にもなるが、妊娠高血圧症候群や先天性の凝固障害のある妊婦に発症率が高いことが知られているものの、その原因となる病態は不明である。今回、我々は、前回妊娠で常位胎盤早期剥離を起こした女性では次回妊娠で10%に早剥を発症し、2回の常位胎盤早期剥離の既往のある女性では25%の発症率となるという疫学的データに着目し、この反復率の高さの要因は、遺伝学的因子では説明できず、その要因に妊娠子宮内の母児境界での細菌叢の変化が関与しているとの仮説で研究を行った。帝王切開時に胎盤娩出直後に胎盤の母体面を擦過してそこから核酸抽出を行い、PCRテンプレートとして16S rRNA遺伝子をPCR増幅したうえで次世代シーケンサー(MiSeq)にて解析を行った。コントロールとして採取した早剥ではない正常の選択的帝王切開の10例において細菌は検出できなかった。さらに、早剥と臨床診断された3症例においても細菌は検出できなかった。このことから、慢性子宮内感染が早剥発症機序に関与するとの仮説は証明できなかった。しかしながら、早剥例において帝王切開開始直前に抗菌薬が点滴投与されていることがこの結果に影響した可能性は否定できず、今後の追加的な検討が必要と考えられた。
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