研究課題/領域番号 |
20K09655
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研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
白砂 孔明 東京農業大学, 農学部, 教授 (20552780)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | NLRP3インフラマソーム / 自然炎症 / 妊娠高血圧腎症 / DOHaD |
研究実績の概要 |
妊娠高血圧腎症は母子共に異常を伴う、治療が困難な疾患である。本病態では胎盤の低酸素により血管内皮障害が誘発され、慢性炎症が関与すると考えられているが、なぜ炎症が起きるのかは不明である。また、妊娠高血圧腎症妊婦の子では将来の生活習慣病発症リスクが増加する長期的影響を受けることが分かってきたが、分子機序は未解明である。 妊娠高血圧腎症は母体のストレスや炎症も発症リスク要因となる。妊娠中のストレス誘導による異常妊娠モデルとして、温水ストレス負荷モデルを構築した。ICRマウスの妊娠15日目に水ストレスを負荷すると、血中コルチコステロン濃度が増加し、母体の体重増加率が減少した。この際、末梢血の好中球や脾臓と胎盤でCD8+T細胞の増加が見られ、母体ストレスにより特に胎盤で機能変化及び炎症が誘起されたことが示唆された。正常母由来の雌産仔と比較し、ストレス母由来の雌産仔の出生体重は低下し、高脂肪食を摂取させても体重増加が抑制された。ストレス母由来の仔に通常食を与えた区では、耐糖能の低下が引き起こされた。また、ストレス母由来の仔の脂肪重量や脂肪細胞面積が減少したことから、脂質蓄積能が低下したことが示唆された。この脂質蓄積能の低下により、肝臓中の脂質含量が増加した。正常母由来の仔と比較し、ストレス母由来の仔の脂肪組織のアディポネクチン分泌の減少、肝臓・脂肪組織の炎症性サイトカイン分泌の増加が引き起こされた。ストレス母由来の仔の肝臓ではDNA低メチル化が起こったことから、何らかの遺伝子発現が亢進したことが示唆された。以上のことから、母体ストレスで胎仔のエピジェネティックな変化が誘導され、仔の成長・脂肪蓄積異常・慢性炎症が起こることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染拡大の影響により、令和3年4月~7月にかけて研究活動に制限がかかっていたため多少のスケジュールの遅れが発生し、やや研究進捗状況に遅れが発生した。また、学会参加のための移動費などに予算を計上していたが、令和3年度に参加予定であった学会は全てオンライン開催となった。 次年度では、タンパク質発現解析・遺伝子発現解析・エピジェネティック解析などに対して繰り越した予算を使用する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
妊娠高血圧腎症モデル:Ang投与によって母体高血圧が誘導され、産仔の成長や組織由来のサイトカイン分泌に影響を及ぼすことが判明した。今後は、“母体高血圧の効果”または“Angの直接的効果”のどちらが産仔の成長などに影響するのかについて、NLRP3阻害剤などを用いて検討する。 ストレス妊娠モデル:妊娠中のストレス誘導によって産仔の耐糖能や肥満発症が変化することが判明した。今後は、妊娠中のストレスで胎盤由来の物質が変化し、それが胎仔成長などに影響するという仮説を検討していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大の影響により、令和3年4月~7月にかけて研究活動に制限がかかっていたため多少のスケジュールの遅れが発生し、やや研究進捗状況に遅れが発生した。また、学会参加のための移動費などに予算を計上していたが、令和3年度に参加予定であった学会は全てオンライン開催となった。 次年度では、タンパク質発現解析・遺伝子発現解析・エピジェネティック解析などに対して繰り越した予算を使用する予定である。
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