妊娠高血圧腎症は母子共に異常を伴う、治療が困難な疾患である。本病態では胎盤の低酸素により血管内皮障害が誘発され、慢性炎症が関与すると考えられているが、なぜ炎症が起きるのかは不明である。また、妊娠高血圧腎症妊婦の子では将来の生活習慣病発症リスクが増加する長期的影響を受けることが分かってきたが、分子機序は未解明である。 妊娠高血圧腎症のモデルとして、AngiotensinⅡ(Ang)を浸透圧ポンプで妊娠マウスに埋め込んだ。妊娠高血圧腎症モデルの産仔では、正常産仔より体重増加の遅延および組織重量の低下が見られた。成長後の解析から、妊娠高血圧腎症モデル産仔は脂肪機能不全により肥満に陥りやすいことが考えられた。妊娠高血圧腎症は母体のストレスや炎症も発症リスク要因となることから、妊娠中のストレス誘導による異常妊娠モデルを構築した。正常母由来の雌産仔と比較し、ストレス母由来の雌産仔の出生体重は低下し、高脂肪食を摂取させても体重増加が抑制された。母体ストレスで胎仔のエピジェネティックな変化が誘導され、仔の成長・脂肪蓄積異常・慢性炎症が起こる可能性が考えられた。一方、妊娠高血圧腎症は母体の加齢や糖尿病も発症リスク要因となることから、加齢妊娠や妊娠糖尿病モデルを構築した。これらのモデルでは妊娠中の高血圧は起きなかったが、肝臓、脾臓または胎盤において炎症が認められ、胎仔の成長後の機能に変化が起きることが分かった。
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