研究課題/領域番号 |
20K09657
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研究機関 | 金沢医科大学 |
研究代表者 |
尾崎 守 金沢医科大学, 総合医学研究所, 技術員 (50319068)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 均衡型相互転座保因者 / 遺伝カウンセリング / 不均衡型転座 / 隣接1型分離様式 / 隣接2型分離様式 / 3:1分離様式 / 4価染色体 |
研究実績の概要 |
相互転座保因者の親から不均衡型転座の子が産まれる確率をStengel-Rutkowskiらの確率評価法で算出するため、すでに4価染色体パキテン図を描くアプリケーションと不均衡領域の大きさから不均衡型転座児の生存を推定するDanielらの方法、通称「Danielの三角形」作成アプリケーションの二つのアプリケーションを作成させていた。この二つのアプリケーションを使って相互転座保因者の不均衡型転座の子が産まれる確率を算出した。二つのアプリケーションの運用で切断点入力を2度実施することが、1回で終了できれば省力化、時間短縮になると考えた。二つのアプリケーションを一つに統合するように改良した。改良したアプリケーションをKMU統合型アプリケーションとした。 KMU統合型アプリケーションは、Windows10で作製されたが、mac OS11で動作できるように改良した。Windows OSはWindows11がリリースされことに対応するべく、これに対応するKMU統合型アプリケーションを改良した。プログラムにあたるコードはVisual Basic for Aplications(Microsoft VBA)で作成されているので、Windows10および11ではOSに付属している機能との連携がスムーズでパキテン図の大きさを変更することが可能であった。mac OSに付属した機能とVBAの連携はスムーズではなかった。 アプリケーションによる均衡型相互転座105症例を解析した結果、その予想された分離様式と実際に産まれてきた不均衡型転座の分離様式を比較すると隣接1型分離様式で高い一致率93%であった。3:1分離様式に、教科書では記載されていない4価染色体の組合せ方が異なるタイプの様式の存在が3例確認することができ、これらを3:1分離様式タイプ2として分類・検出するアプリケーションに改変した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の進捗状況についての区分の理由は、アプリケーションの基本は完了したと考えている。より使い易さを求めて、アプリケーションに改良点がないかと検討し改良したものが最新版のアプリケーションになっている。パキテン図は手動で描くと約20分以上必要であったが、アプリケーションを使うと5分以内にパキテン図をPCのモニターを描くことができる。相互転座保因者の遺伝カウンセリング担当者の負担軽減を目的とする本研究の一部は達成できたと考える。更に相互転座保因者から産まれる可能性がある不均衡型転座様式をパキテン図の形態より正確に予想できると期待される方法(Danielの三角形)をアプリケーションに加えることで10分以内に不均衡転座の子が産まれる可能性がある4価染色体の分離様式を絞り込むことができる。 アプリケーションの配布については、70名あまりの臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーに届けることができた。主に産婦人科領域の遺伝カウンセリングに関わる方には、アプリケーションの存在を認識されたのではないかと考える。確率を計算するStengel-Rutkowskiらの確率評価法の使い方の質問があった。これらの質問に対しては、見本となり得る確率を算出するまでの過程の詳細を記録したレポートを返し、検討していただくようにした。Stengel-Rutkowskiらの確率評価法について解説が必要と考えその準備をしている。 実際の相互転座保因者の解析を文献にある症例や確率計算を依頼された症例で行ったところ、アプリケーションで予想した分離様式は隣接1型分離様式ではほぼ一致した。ところが隣接2型分離様式による不均衡型転座が産まれてくることはないと予想するも、隣接2型分離様式の不均衡型転座の子が産まれていた症例があった。実際の相互転座保因者症例解析の重要性を示唆する段階に至った。
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今後の研究の推進方策 |
アプリケーションはWindows10、Windows11、mac OS11、mac OS12が利用することができる。アプリケーションの大きな開発は終了する。アプリケーションを配布した方々から、その使い方と解析結果からStengel-Rutkowskiらの評価法の使い方について質問があった。これに応えるために文献から家族歴などの遺伝情報が確保された症例を多く収集して、アプリケーションで相互転座保因者から不均衡型転座の子が産まれる確率をStengel-Rutkowskiらの評価法に計算の詳細をレポートとして開示することによって、アプリケーションとStengel-Rutkowskiらの計算法の理解を促すようにする。また、e-mailで質問を受付けこれに応えていく予定である。アプリケーションの利用者から、相互転座ではないがComplex Chromosomal Rearrangement(染色体が3本、4本関係する再配置)のパキテン図の希望があったので、できるだけこれに応えていきたい。 これまでの相互転座症例のアプリケーションによる解析とStengel-Rutkowskiらの評価法で、隣接1型分離様式、3:1分離様式では確率計算まで辿り着くことができたが、隣接2型分離様式では確率を算出できなかった。この問題が改善できないか検討する。 また派生した問題であるが、不均衡転座の子が産まれる確率を算出する過程で確率表にある<付き確率の扱い方が30年前とは異なる方法が示されている。当初は確率を1/2で計算するが、現在ではそのままの数字を使うことが示されている。この問題に関して見解を22年度内に出す予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は、アプリケーションの改良に時間がかかった。作成したパキテン図が予想以上に小さく、これを報告書に適した大きさに拡大するコードを開発しようと試みたが、煩雑なコードになり運用上トラブルが発生し結局、手動で拡大する方法が最も適していることがわかった。またWindowsのOSが更新され、これに対応するために時間がかかったが克服することができた。しかし、論文作成のための時間がなくなった。 2022年度は、研究成果を論文投稿に注力する予定である。また完成したアプリケーションを安全に保管しておくための機材を購入する予定である。
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