研究課題/領域番号 |
20K09668
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研究機関 | 滋賀医科大学 |
研究代表者 |
辻 俊一郎 滋賀医科大学, 医学部, 准教授 (30601546)
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研究分担者 |
村上 節 滋賀医科大学, 医学部, 教授 (20240666)
長村 登紀子 (井上登紀子) 東京大学, 医科学研究所, 准教授 (70240736)
林 香里 滋賀医科大学, 医学部, 助教 (70569251)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 子宮内膜症 / ヒト臍帯由来間葉系細胞 / カニクイザル / 新規治療の開発 |
研究実績の概要 |
子宮内膜症は霊長類にのみ自然発生し、疼痛や不妊を主訴とする女性骨盤内における慢性炎症性疾患と理解することができるため、その疾患理解を行うための動物実験としては、免疫系が正常に働きかつ自然発症するサルを使用することが望ましいと考えてきた。我々はサルの子宮内膜症の自然史について月に一度腹腔鏡検査を行うことで、その進展様式を解析し報告した。一方、子宮内膜症に対する治療戦略には未解決問題が多い。現状は、ホルモン剤か手術療法と限定的であり、前者は排卵を抑制するため治療を行うためには妊孕能を放棄せねばならず、また後者は深部子宮内膜症等の重症例では手術合併症も多くなり安全とは言い難い。そこで近年、抗炎症性作用を有する新しい医療資源として注目されているヒト臍帯由来間葉系細胞(Umbilical cord derived stromal cells; UC-MSC)を用いることで、前述の問題を解決する子宮内膜症の新規治療薬候補とすべく本自験を行うこととした。昨年までにUC-MSCの樹立を行い、また腹腔鏡検査による子宮内膜症罹患サルの選定を行ってきた。本年は子宮内膜症罹患サルとして選定した8頭に対して、5頭をUC-MSC投与群。3頭をcontrol群とし研究を行った。評価は腹腔鏡検査による腹腔内所見と子宮内膜症のマーカーであるCA125を用いた。毎週静脈投与を行い投与群で2頭にCA125の低下を認めたが、腹腔内所見にて有意な改善は認めなかった。Control群では1頭子宮内膜症に起因すると思われる腸閉塞を発症し、安楽死にいたった個体が存在した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
子宮内膜症罹患サルへのUC-MSC投与の実験系が確立され、研究として順調に経過している。 昨年に引き続き子宮内膜症罹患サルを選定し、計8頭を選定できた。5頭にUC-MSCを静脈投与し3頭にはコントロールとして生理食塩水を静脈投与した。投与方法を静脈投与とした理由は将来の臨床応用を念頭におき決定した。投与量はUC-MSCを2×106個/kgとなるように調整した。4週投与毎に全身麻酔下に腹腔鏡検査を行い、我々が以前報告したサル用の腹腔鏡所見のスコアを用いて評価した。さらに採血検査にて子宮内膜症の血清マーカーであるCA125を測定した。4週投与を1クールとし、連続3クールを行った。治療群の5頭のうち2頭でCA125の改善傾向を認める一方、腹腔鏡所見では明らかな改善を認めなかった。一方、コントロール群のサル1頭が食欲不振から体重が著しく減少し、動物愛護の観点から安楽死となった。解剖を行うと、ダグラス窩の閉鎖および消化管閉塞を認めた。病理組織学検査およびCD10にて免疫染色を行いダグラス窩に異所性子宮内膜を同定できた。子宮内膜症の進行に伴う消化管狭窄が疑われた。週に一度の静脈投与3クールにて著名な改善は認めないことから、腹腔内投与を併用するプロトコールへと変更した。腹腔鏡検査施行時に腹腔内投与および静脈投与を行い、続きの3週間は静脈投与のみとした。今後本プロトコールで3クール行い、投与方法変更に伴う治療効果の判定を行う。
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今後の研究の推進方策 |
静脈内投与では著名な効果を認めなかった。そこで、月に1度ではあるが腹腔内に直接投与することでUC-MSCの骨盤内腹膜病変に対する直接効果を検討する。効果が不十分であれば、毎週腹腔内投与を行うプロトコールも用意している。ただし、実際の臨床応用を考えれば、毎週の腹腔内投与は現実的でないため、腹腔内投与は必要最小限にとどめるような研究の組み立てを考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の影響により2020年度における研究の一時中止が所属研究期間でなされた。その影響もあり、動物を用いた基礎研究の一時中止を余儀なくされたため研究の施行が全体的に後ろへずれているため。2021年は計画通り行えている。
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