研究課題
本研究では、胎盤栄養膜細胞における転写因子HIF-2αによる生理的・病的条件下でのFlt1遺伝子発現機構を明らかにすることを目的とした。初年度では、ヒト単離栄養膜細胞およびヒト絨毛由来細胞株における低酸素誘導性Flt1遺伝子発現上昇にHIF-2αに加えてHIF-1βも機能していることをsiRNAやHIF-2α/HIF-1β複合体形成阻害剤を用いて明らかにした。次年度では、これらが結合するFlt1遺伝子上に存在する低酸素応答性領域(HRE)を同定するためのクロマチン免疫沈降シーケンス(ChIP-seq)解析を実施するにあたり多くの細胞数が必要となるため細胞ソースの探索を行なった。その結果、ヒト単離栄養膜細胞と同様に低酸素培養によりHIF-2α/HIF-1βを介してsFlt1タンパク質産生を増強させるヒト栄養膜幹細胞株より分化誘導させた合胞体性栄養膜細胞(STB)が解析に有用であることがわかった。最終年度では、HIF-2α/HIF-1βがSTBにおいて通常酸素濃度培養でのFlt1遺伝子発現にも関与することを示した。さらにChIP-seq解析の結果、数ヶ所のHRE候補を絞り込むこともできた。だが、どの部位が機能的HREであるのかについては今後の検討課題であるが、通常酸素濃度培養と低酸素培養では重複するHRE候補が存在しなかったため、それぞれの培養条件で異なるHREを介してFlt1遺伝子の転写を制御している可能性が示唆された。本成果から、HIF-2αとHIF-1βの複合体形成阻害が妊娠高血圧症候群の新たな治療戦略になる可能性が考えられた。
すべて 2023
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Experimental Cell Research
巻: 424 ページ: 113500~113500
10.1016/j.yexcr.2023.113500