研究課題/領域番号 |
20K09681
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研究機関 | 藤田医科大学 |
研究代表者 |
藤井 多久磨 藤田医科大学, 医学部, 教授 (10218969)
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研究分担者 |
市川 亮子 藤田医科大学, 医学部, 助教 (30767306)
川原 莉奈 藤田医科大学, 医学部, 助教 (50767332)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | サイトカイン / マイクロバイオーム / 子宮頸部腫瘍 / 炎症 |
研究実績の概要 |
子宮頸がんの発がん因子としてヒトパピローマウイルス(HPV)感染が挙げられるものの、実際には感染者の極一部のみにがんが発生するそのメカニズムは不明である。本課題では宿主の環境因子に着目し, 将来の子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)に関する診療・予防戦略において重要な情報を収集解析することにある。 CINの進展、退縮における腟マイクロバイオータの果たす役割を解明するために、患者から子宮頸腟部粘液検体を採取し、マイクロバイオームを次世代シークエンサーで解析した。その結果、マイクロバイオームの属の特性について以下の4つのグループに分類することができた。すなわち、CT1;L. inersが優位でないLactobacillusが優位、CT2;L. inersが優位、CT3;Gardnerella優位、CT4;その他の群である。腟内の炎症として14種類のサイトカインの発現をマルチプレックス・ビーズアッセイで測定したところ、IL-1bはGardnerella優位(CT3)で高発現が認められた。一方、この研究の弱点として、疾患別のマイクロバイオーム解析を行うと、個人のheterogeneityによるマイクロバイオームの違いが大きいことが分かった。そこで、この弱点を克服するため、CINの治療介入により腟内環境がどのように変化するか否かを同一患者の治療前後で解析した。その結果、術後ではマイクロバイオータとしてAtopobium vaginaeの出現が減少していたが、一方でUreaplasmaは増加していた。術後のサイトカインの発現レベルの解析ではIL-1b,TNF-a,MIP-1a,eotaxinが減少していた。特に、eotaxinは術後のHPVクリアランスと有意に相関していることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
生体内炎症を引き起こす中心的な役割を果たす重要な因子として転写因子NF-Kbが挙げられ、HPVの遺伝子にはNF-Kbの結合部位があることから、NF-Kbの腟内における発現レベルを解析することにした。NF-Kbは核内で転写因子として作用することから、核内移行したNF-Kbのタンパク質発現レベルを解析することは重要である。そこで、核内/細胞質内のNF-Kbタンパク発現レベルの比と子宮頸部腫瘍の病変の進行との相関について解析した。NF-Kbのサブユニットであるp65と p50はそれぞれ正常、CIN1-3,浸潤がんの一連のカスケードにおいて病変の進行とともにその発現レベルの比は上昇していた。HPV感染との関連について調べたところ、p65,p50ともに感染陽性者に数値が高いことが分かった。HPV型別ではそれほど大きな差は認められていない。 さらに、腟内メタボロームと子宮頸がんとの関連を解析するため、正常およびCIN、浸潤がんの患者から腟内分泌物を採取し、病変との相関について解析を行った。その結果、正常に比して浸潤がんでその発現レベルの上昇がみられる分子が抽出された。現在、これらの分子について解析を進めている。これらの分子を検出することで、がんおよび前がん病変との相関が高ければ、腫瘍マーカーとして臨床的に有用なことも示唆される。さらにNF-Kbの発現レベルが高い群と低い群では主成分分析により、疾患の違いによる低分子化合物の発現の違いが認められた。そこで、さらに検体数を増やして詳細な解析を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
本課題では子宮頸部腫瘍病変を有する患者から子宮頸腟部および腟内分泌物を採取し、炎症性サイトカイン、マイクロバイオーム、メタボローム、NF-Kb、HPV型を分析し、その結果を子宮頸部細胞診および組織診と照らし合わせ、その相関を解析している。とくにマイクロバイオームの変化がメタボロームに及ぼす影響を知ることは宿主の環境因子の変化を知ることにもなり、子宮頸部発がん機構解明において大変重要なポイントと認識している。正常と浸潤がんとの比較によるメタボローム解析により、いくつかの分子が診断補助マーカーとして有用な可能性も示唆されたことから、前がん病変における変化の解析を行い、補助診断マーカーとしての精度を検討する。 HPV感染の有無によるメタボロームの変化については、CINの形成以前、すなわち健常者から検体を採取し、HPV陽性および陰性患者を振り分け、両群においてメタボローム解析を行う必要がある。予備的な解析を行ったところ、HPV陽性群において、特異的な小分子化合物の発現がみられていることから、この詳細な解析を行っている。HPVの感染をゲノムレベルで検出するだけでなく、宿主の反応としての低分子化合物の発現が明らかとなれば、HPV感染のマーカーとして有用であり、臨床的な応用が期待される。
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