研究課題
細胞内セカンドメッセンジャーとして働く重要な内在性分子であるホスホイノシチドのHPVゲノム複製への関与を検討した。HPV16ゲノムを保持するU2OS/HPV16細胞及び親株U2OS細胞から、クロロホルム/メタノール/HCl混合液の添加により、脂質画分を有機溶媒層に抽出し、逆相カラムクロマトグラフィーによる脂質分子の分離と質量分析装置によるLC-MS/MS質量分析によって、細胞内のホスホイノシチド分子種の検出・定量を行った。その結果、U2OS/HPV16ではU2OSと較べて、8種類のホスホイノシチド分子の内、PIP3レベルが低下していることが示された。PIP3を脱リン酸化するPTENの活性が、U2OS/HPV16で上昇していることが示唆された。そこでPTEN活性がHPV DNA複製に及ぼす効果を、培養細胞での一過性HPV複製系で検討した。HPV複製オリジン配列をルシフェラーゼプラスミドに組み込み、ヒト子宮頸癌細胞C33AにてHPV複製タンパク質E1/E2の共発現によりオリジンプラスミドの複製を誘起して、HPV複製レベルをルシフェラーゼ活性により定量化する細胞アッセイを用いた。C33Aは内在性PTENの発現が認められないが、発現プラスミドの導入によりFLAGタグ付きPTENを過剰発現させるとHPV DNA複製が約30%抑制された。一方、酵素活性を失ったPTEN変異体(C124S, G129E)では抑制効果が若干減弱した。これらの結果から、PTEN活性の上昇によりウイルスゲノム複製が低レベルに抑えられることが、宿主免疫系から逃れるHPVの潜伏持続感染につながっている可能性が考えられた。
2: おおむね順調に進展している
HPV16ゲノム保持細胞にてホスホイノシチド分子種の定量を行うことで、HPVゲノム維持に関わるホスホイノシチド候補が得られており、当初の研究計画に沿って進捗している。
U2OS/HPV16及びU2OSからRNAを調製してRNA-seq解析を行い、HPVゲノム維持に伴って発現が上昇または減少するホスホイノシチド特異的キナーゼ・ホスファターゼを探索する。
年度末納品等にかかる支払いが令和3年4月1日以降となったため。当該支出分については次年度の実支出額に計上予定であるが、令和2年度分についてはほぼ使用済みである。
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