研究課題/領域番号 |
20K09683
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研究機関 | 旭川医科大学 |
研究代表者 |
野口 智弘 旭川医科大学, 医学部, 講師 (10466500)
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研究分担者 |
笹島 仁 旭川医科大学, 医学部, 講師 (00374562)
宮園 貞治 旭川医科大学, 医学部, 助教 (50618379)
志賀 英明 金沢医科大学, 医学部, 准教授 (80436823)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 嗅覚障害 / 嗅球 / ロテノン / シヌクレイノパシー |
研究実績の概要 |
パーキンソン病は、嗅球もしくは下部脳幹におけるレビー小体(α-シヌクレイン)の蓄積に始まり、それが他の脳領域にも広がることによって発症に至ると考えられている。下部脳幹から広がる経路は中脳ドパミン細胞へ影響を及ぼし、固縮や振戦といった典型的なパーキンソニズムを生じる。他にも歩行や姿勢で見られる特有の病態がドパミン以外のモノアミン作動性細胞やコリン作動性細胞の障害と対応する可能性がある。一方、嗅球のレビー小体変性で生じる嗅覚障害においては、嗅球内で変性する細胞の種類とその病態との対応関係は不明である。その理由として、歩行や姿勢に比べると、嗅覚障害の詳細な病態の解析が困難であることが挙げられる。我々は、嗅球内の複雑な神経構築と対応する病態を発見するため、精細な嗅覚測定を可能にするための新規手法を開発した。 嗅覚障害モデルマウスの匂い識別能の判定にはY迷路を用いた行動観察が一般的に用いられてきた。例えば、Y字の左右の腕の一方にマウスの忌避する匂い物質を置き、マウスが匂い源の無い方の腕に長く滞在すれば、そのマウスは匂いを識別していることが分かる。しかし、Y迷路内の匂い濃度の時間的空間的分布が不明なために、迷路内のマウス行動の解析は匂い識別の有無の定性的判定にとどまらざるを得なかった。そこで、我々は微量揮発成分を迅速に検出できるヘッドスペース固相マイクロ抽出/ガスクロマトグラフィー質量分析 (HS-SPME/GC-MS) とマウス行動実験を組み合わせ、Y迷路内における複数個所の匂い物質濃度の経時的変化を測定した。その結果、マウスの匂い忌避行動と匂い物質濃度分布の相関を定量的に示すことに成功した (Osada et al., Biosci Biotechnol Biochem, 2021)。この手法を細胞特異的な嗅覚障害モデルマウスに適用すれば、嗅覚障害の詳細な病態解析の実現が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々のグループは現在に至るまで、ミトコンドリア阻害剤であるロテノンをマウスに点鼻投与すると、嗅球ドパミン細胞に細胞死が誘導されると同時に匂い識別能が低下することを明らかにしてきた。本研究課題ではさらに、点鼻投与7日後には嗅球傍糸球体細胞が再生する可能性を示すデータを得た (未発表)。この再生が機能的なものかどうかを確かめるため、ニューロン特異的に発現するK+/Cl- cotransporter 2 (KCC2) とニューロンおよびグリアの双方に発現するNa+/K+/Cl- cotransporter 1 (NKCC1) の免疫染色を実施し、現在、解析中である。
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今後の研究の推進方策 |
神経細胞においては、アポトーシスやネクローシスなど細胞死の様態と、ミクログリアによる細胞残骸のクリアランスが、引き続く神経再生過程に強く影響を及ぼす。本研究では、嗅球ドパミン神経変性をミトコンドリア呼吸鎖阻害剤により誘導しているが、このとき誘導される細胞死の詳細には不明な点が残されている。そこで、嗅球ドパミン神経細胞に特異的なアポトーシスを誘導し、ミトコンドリア阻害による細胞死誘導と神経再生に与える影響の違いを検討すべく、Double-Floxed Inverted ORF-dTA (DIO-ジフテリア毒素A)を発現するアデノ随伴ウイルス(AAV)を作製した。今後、Tyrosine Hydroxylaseプロモーター下流でCreリコンビナーゼを発現するTgマウスの嗅球へDIO-ジフテリア毒素Aウイルスを感染させ、細胞死様態の違いが、嗅覚神経回路の再生にどのような変化をもたらすか解析する。 嗅覚障害モデルマウスの細胞特異的な病態と機能回復の経過を詳細に解析するため、匂い嗅ぎ運動に着目した実験系を構築する。匂い嗅ぎはマウスが新規匂いを探索する際に示す5~10 Hzに及ぶ速く強い呼吸である。嗅覚の障害が匂い嗅ぎにどのように影響するかは不明な点が多い。また、パーキンソン病の早期に生じる嗅覚障害の中には、呼吸運動の低下が原因と見られるものがある。そこで、呼吸波形と肺気量を精密に測定できるプレチスモグラフを用いて、自由行動下で匂い刺激を行った場合のマウスの呼吸変化を調べる。ウイルスベクターを用いた細胞特異的な嗅覚障害モデルマウスの匂い識別能と匂い嗅ぎ運動の関係を明らかにする。匂い刺激を検出できた場合にはマウスは匂い嗅ぎを行い、しかし、匂いの識別ができない場合には匂い嗅ぎ後にマウスは忌避行動を取らないことが予想される。この観察はマウス嗅覚障害の病態を検出と識別の異常に分類可能とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品調達が予定より安価で済んだため、当該助成金が生じた。翌年度に消耗品の購入を行う。
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