研究実績の概要 |
下咽頭癌に対しては、従来からシスプラチンなどの抗癌剤が使用されてきた。しかし、一般的にもこの治療法は特異性が低く、完全寛解はほぼ期待できない。近年盛んに開発が進んでいる分子標的薬は、主に血液癌や肺腺癌・腎癌・乳癌など一部の癌に適応が限られており、下咽頭癌を含む他癌種においては未だ有望な標的薬がほとんど開発されていない。また、癌においては腫瘍組織だけではなくその周辺環境が癌の維持・進展に重要であるという報告が多いが、下咽頭癌では多くの点が不明である。これまで私たちは、non-coding RNA であるHOTAIR が肺癌・胃癌・腎癌・肝細胞癌の悪性度と関係する、有望な治療標的であることを報告してきた(BBRC 2013, PLoS One 2013, Scientific Reports, 2017, Oncology Letters 2018)。HOTAIRは従来癌細胞の悪性度、特に遊走能に関与するとされて いたが、私たちのこれまでの研究から、HOTAIRは癌細胞の性質に関与するだけでなく、間接的に周囲間質のリンパ球にも影響を与え、腫瘍環境をつくりあげることがわかってきた。本研究では、まだ治療標的に乏しい下咽頭癌に関して、cell autonomousおよび周囲微小環境への影響の両面からHOTAIRの役割を明らかにする。最終的には、下咽頭癌における新たな治療標的としてHOTAIRを同定・確立する。 本年度は昨年度に引き続き、候補に挙がっている分子の機能性を検討した。ノックダウンやノックアウトシステムを用いて、癌の悪性のに影響があるかどうかを検討した。その結果、いくつかの候補分子を同定した。現在、この候補分子とHOTAIRがどのように相互作用するか、複数の側面から検討を続けている。
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