ヒトおよびマウスの難聴発症原因遺伝子の1つであるミオシン6は、変異アレルホモで先天性難聴およびヘテロで進行性難聴を発症する。本研究は異なるミオシン6の突然変異を持つモデルマウスの病態が、変異アレル間で異なることを見出した。特にミスセンス変異をヘテロ接合で持つ個体は欠失アレルヘテロ接合のマウスよりも早発の進行性難聴を引き起こすことも明らかとした。本年度は、アデノ随伴ウイルスベクターを介した遺伝子治療のための基礎データを蓄積するため、以下の解析を実施した。 ・モデルマウスの表現型解析 対象としたミオシン6ミスセンス変異マウスの1つは、難聴発症に加え、行動パターンが野生型と異なることが報告されている。さらに、生後初期のヘテロ個体におけるアデノ随伴ウイルスベクターを用いた変異アレル破壊が実施され、難聴発症が遅延することも先行研究として報告された。一方、行動異常に関する詳細な情報は乏しい状態にあるため、本研究ではオープンフィールドテストによる行動解析を実施した。その結果、上述したミスセンス変異マウスはホモ接合体であっても欠失変異マウスが示す旋回行動は認められず、変異アレル間で行動異常として認められる病態も変異部位によって異なることが示唆された。加えて、首振りといった野生型とは異なる表現型が、加齢に伴い目視レベルで容易に確認でき、オープンフィールドテストでの数値化を期待したが、方向転換や立ち上がりなどの項目で反映することはできず、ヘテロ接合体との差異も検出することはできなかった。 ・アデノ随伴ウイルスベクター導入時期の検討 変異アレル破壊を目的とした導入実験で難聴モデルマウスの病態の遅延が先行研究で認められ、モデルマウスの聴力レベルの低下時期および有毛細胞の不動毛形態異常の出現時期から、その治療時期を検討したが、アデノ随伴ウイルスベクター構築には至らなかった。
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