本研究の目的は、1)機能的電気刺激によって誘発される声帯の閉鎖運動や開大運動は反回神経麻痺による喉頭機能の障害を軽減できるのか確認する、2)長期 間にわたる機能的電気刺激の筋組織や神経組織に対する安全性を確認する、3)長期間にわたる機能的電気刺激の神経再支配の速さや正確性への影響を確認す る、以上の3点である。 これらの目的を達成するためには、反回神経を切断したイヌ声帯麻痺モデルと、麻痺している内喉頭筋を長期間にわたって刺激する完全埋め込み型の専用のシ ステムが必要となる。我々はすでに電子機器メーカーとの共同研究によって、イヌの声門閉鎖筋や声門開大筋の刺激に特化した完全埋め込み型の機能的電気刺激 システムの開発を完了している。 昨年度は、麻痺している右声門閉鎖筋の表面に電極を埋め込み、創部が安定した段階で体外から刺激発生装置を駆動させ、声門閉鎖運動を誘発する計画であった。合計3頭のイヌ声帯麻痺モデル動物に電極の埋込手術を施行した。1頭に創部の術後感染が生じたため、いったん留置した電極を抜去して新しい電極を再度留置する手術をおこなった。残りの2頭は創部に感染をおこすことはなかった。創部が安定するのを待って電気刺激をおこなったが、3頭いずれも電気刺激で有意な声門閉鎖運動を誘発できなかった。埋め込まれている電極を確認したところ、埋め込み手術から1か月の間に電極と刺激発生装置をつなぐリード線が破損していた。 最終年度である本年度は、電極を破損しにくいタイプに改良し長期間の安定性を確認する実験を計画していた。しかし、イヌの飼育室と実験室を設置している建物が老朽化により、使用できなくなった。立て替えの計画はなく、本学からもイヌを用いた実験の継続は難しいといわれたため、年度の途中ではあったが、科研廃止届けを提出し、承認された。
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