研究課題/領域番号 |
20K09705
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
菊田 周 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (00555865)
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研究分担者 |
近藤 健二 東京大学, 医学部附属病院, 准教授 (40334370)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 嗅覚障害 |
研究実績の概要 |
本研究では嗅上皮を障害させる物質を投与することで、人為的に嗅上皮障害を引き起こす。これら嗅上皮の障害が、インスリン点鼻によって抑制されるかどうかを主に免疫組織学的手法によって詳細に観察する。この観察を通して嗅上皮の恒常性維持における鼻汁中インスリンの役割を明らかにすることが目的である。今年度は以下の結果が得られた。
組織学的な被障害性の程度は鼻汁中のインスリン濃度と相関する。 1型糖尿病マウス(空腹時血糖250mg/dl以上)を作成し、正常マウスと糖尿病マウスに対してメチマゾール(35mg/kg, 腹腔内)を投与した。投与後3日目にピロカルピンを腹腔内に投与し、マウス鼻汁を採取した。1型糖尿病マウスでの鼻汁中のインスリン量をELISA法で測定すると、正常マウスと比較して有意に少なかった。さらに、糖尿病マウスに対してメチマゾールを投与すると、正常マウスでの障害程度と比較して嗅上皮障害の程度は強く、嗅上皮はより薄くなっていた。また嗅細胞数や成熟嗅細胞数は著しく減少していた。逆にインスリン濃度が高い正常マウスにメチマゾールを投与すると、嗅上皮の被傷害性は低下していた。組織学的に嗅上皮は厚く、嗅細胞数ならびに成熟した嗅細胞数は維持されていた。これらの結果は、鼻汁中のインスリンは嗅細胞のアポトーシス誘導を抑制するが、十分なインスリン量がないと嗅細胞のアポトーシス誘導を制御できず、嗅上皮の障害の受けやすさは鼻汁中のインスリン濃度に依存することを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予備実験によって、嗅上皮の障害がインスリン点鼻によって抑制されることをすでに確認していた。また実験手技が容易であり、免疫染色もこれまで実績のある抗体を使用したことが順調に進展した主な要因であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り、次の点を明らかにするために実験を進める。
好酸球からの好酸球性カチオン性蛋白による嗅上皮障害はアポトーシスを介して起こり、インスリン点鼻によって障害が抑制される。
嗅覚障害の主因の1つである好酸球性副鼻腔炎に着目し、嗅上皮障害機序の解明ならびにインスリンによる障害抑制効果を観察する。予備実験において、好酸球性カチオン性蛋白(eosinophilic cationic protein, ECP)をマウスに点鼻投与すると、嗅細胞にアポトーシスが誘導され、嗅上皮が障害されることを明らかにしている。ECP投与+生食点鼻群(3回/日、7日間)とECP投与+インスリン点鼻群を作成すると、ECP投与前にインスリン点鼻投与を先行させた群では、ECP投与側の嗅上皮は障害を受けずに保たれていた。サンプル数を増やし、各サンプルにおける成熟嗅細胞数ならびにカスパーゼ3陽性細胞数を計測し、ECPによる嗅上皮障害がインスリン点鼻投与によって抑制されることを証明する予定である。さらに、嗅覚機能面での障害抑制効果を検討するために、成熟嗅細胞の軸索末端にpHセンサー蛋白を発現させたOMP-SpHノックインマウスを用いて、機能イメージング解析を行う。OMP-SpHマウスにECP投与あるいはECP+インスリン投与を行い、嗅神経活動をイメージング手法によって観察する。具体的にはケタミン、ラボナール麻酔を行い、マウス前頭骨を骨バーで薄く削り、嗅球背側部を露出させる。共焦点レーザー顕微鏡を用いて488nmの励起光を嗅球背側部に当て、匂い刺激に対するSpHシグナルを観察する。匂い刺激は、オルファクトメーター(100ml/分の流量、5秒間刺激)を使用し、これまで使用経験のある直鎖アルデヒド類を用いて行う。これら匂い刺激に対する神経応答は申請者が確立した方法によって定量的に評価する予定である。
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