研究期間全体を通して以下の成果が得られた。 1.鼻汁中インスリンは嗅細胞でのアポトーシス誘導を抑制する。 鼻汁中へのインスリン投与によって嗅細胞でのアポトーシス誘導が抑制されることを組織学的に証明した。メチマゾール投与に加えて片鼻にインスリンを点鼻投与すると、嗅上皮障害が抑制されるのが観察された。 2.組織学的な被障害性の程度は鼻汁中のインスリン濃度と相関する。組織学的な被障害性の程度は、鼻汁中のインスリン濃度と相関することを証明した。1型糖尿病マウスでの鼻汁中のインスリン量をELISA法で測定すると、正常マウスと比較して少なかった。さらに、糖尿病マウスに対してメチマゾールを投与すると、正常マウスでの障害程度と比較して嗅上皮障害の程度は強く、嗅上皮はより薄くなっていた。 3.好酸球からの好酸球性カチオン性蛋白による嗅上皮障害はアポトーシスを介して起こり、インスリン点鼻によって障害が抑制される。嗅覚障害の主因の1つである好酸球性副鼻腔炎に着目し、嗅上皮障害機序の解明ならびにインスリンによる障害抑制効果を観察した。好酸球性カチオン性蛋白(ECP)をマウスに点鼻投与すると、嗅細胞にアポトーシスが誘導され、嗅上皮が障害されていた。ECP投与+生食点鼻群とECP投与+インスリン点鼻群を作成すると、ECP投与前にインスリン点鼻投与を先行させた群では、ECP投与側の嗅上皮は障害を受けずに保たれていた。さらに、嗅細胞の軸索末端にpHセンサー蛋白を発現させたOMP-SpHノックインマウスを用いて、機能イメージング解析を行った。匂い刺激に対するSpHシグナルを観察すると、ECP投与前にインスリン点鼻投与を先行させた群での神経応答はECP投与+生食点鼻群と比較して保たれていた。
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