研究実績の概要 |
先天性難聴は新生児1000人に1人に認められる比較的頻度の高い疾患であり、その50〜60%は遺伝子の関与する難聴である。難聴の原因を明らかにすることは治療法の選択などに有用であるが、実際のヒト内耳における遺伝子発現解析はほとんど行われておらず、詳細は不明のままである。 本研究ではインスブルック医科大学との共同研究により、非常に貴重なヒト内耳のトランスクリプトーム解析を行い、実際のヒト内耳の遺伝子発現パターンの網羅的解析を目的に研究を行った。具体的にはインスブルック医科大学でヒト内耳をRNA-Later中で解剖し、日本に輸送した。信州大学では、輸送された内耳よりRNA抽出を行い、TaKaRa 社のSMART-Seq v4 Ultra Low Input RNA Kitを用いてライブラリの調整を行い、Illumina社のNovaSeqおよびOxford Nanopore社のMinION を用いて遺伝子発現量の網羅的解析を行った。また、得られたヒト内耳の遺伝子発現のバイオインフォマティック解析を実施した。その結果、ヒト内耳の網羅的遺伝子発現パターンを明らかにすることが出来た。特にロングリード型の次世代シークエンサーを組み合わせて用いることで、内耳特異的なalternative splicing variant の存在する遺伝子を複数見出すことが出来た。本共同研究の成果は、現在論文投稿に向けた準備を進めている(Nishio et al., in preparation)。また、得られた遺伝子発現量の情報を基に免疫染色およびin situ hybridizationの結果との比較検討をおこなった。その結果、内耳の組織形態学的な発生段階と、遺伝子発現パターンが一致することを複数の難聴原因遺伝子で明らかにすることが出来た。
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