研究課題/領域番号 |
20K09709
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研究機関 | 地方独立行政法人神戸市民病院機構神戸市立医療センター中央市民病院(第1診療部、第2診療部、第3診療部 |
研究代表者 |
山崎 博司 地方独立行政法人神戸市民病院機構神戸市立医療センター中央市民病院(第1診療部、第2診療部、第3診療部, 中央市民病院, 医長 (80536243)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 人工内耳 / 脳波 / 聴覚 / 視聴覚統合 |
研究実績の概要 |
本研究では、健聴者、先天性難聴を有する人工内耳装用者、後天性難聴を有する人工内耳装用者を対象に、(1)「バ」「ダ」「ガ」の視聴覚刺激、(2)「バ」「ダ」「ガ」の視覚刺激、(3)三音節の口唇読話の3条件を施行する研究デザインを用いた。(1)は視聴覚統合の程度の行動学的評価として使用し、(2)、(3)で視覚情報を用いた語音弁別の際に、どのような皮質反応が励起されるかを評価した。まず、Cz(聴覚野評価目的電極)、Oz(視覚野評価目的電極)のそれぞれの平均波形を解析したところ、先天性難聴者、後天性難聴者、健聴者間で類似していた。しかし、「バ」「ダ」「ガ」の発声が起こる前の口唇運動が提示されている期間のOz波形に注目すると、先天性難聴者で視覚優位のコミュニケーションモードを使用している被験者では、「バ」「ダ」「ガ」ごとに異なる波形を示す傾向があり、口唇運動の差異に敏感に反応している可能性が示唆された。次に、得られた波形の時間周波数解析を行うと、後頭葉から頭頂葉における電極の20Hz付近でevent-related desynchronization(ERD)が観察された。ERDの観察される期間が視覚的語音刺激の長さに依存すること、「バ」「ダ」「ガ」の視覚刺激よりも三音節の口唇読話時の方がERDのamplitudeが大きいことから、ERDは視覚的情報に基づく語音聴取に関連した皮質反応と考えられた。興味深いことに、視覚的言語を使用している被験者ではERDが後頭葉で最も強いのに対し、聴覚活用が進んでいる被験者では頭頂葉で最も強いことから、コミュニケーションモードによって皮質反応が異なる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は先天性難聴を有する人工内耳装用者10名、後天性難聴を有する人工内耳装用者14名に研究参加頂いており、現時点で予定している数の人工内耳装用者に研究参加をしていただいている。人工内耳から発生する電気的アーチファクトが予想よりも大きく、視聴覚刺激時の脳波解析ができなかったことが誤算であったが、視覚刺激を中心としたタスクに変更することで対応できている。一方解析では、先天性難聴を有する人工内耳装用者では、「バ」「ダ」「ガ」の視覚刺激や三音節の口唇読話時の脳機能が健聴者と大きく異なることを想定していたが、Cz、Ozの平均脳波波形では大きな差を認めず、視覚言語依存度に関連した特徴も認めなかった。しかし、時間周波数解析を行うことで対象群のグループごとに差異を検出できそうであることから、研究の進捗状況は概ね予定通りと考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、さらに被験者を増やして同じタスクを行い、被験者の失聴期間や人工内耳装用効果に関連した平均脳波波形やERDの所見がないか探索する。ただし、脳波所見の個人差は健聴者でもが大きいことから、今年度中にさらに20人程度の研究参加者を追加し、個人差の影響を最小限にすることに務める。健聴者を対照とした前実験では、視聴覚統合に伴う錯覚の顕現率が高いほどCzとOzのcoherenceが強くなる結果を得た。そのため、本解析でもCzとOzのcoherenceを調査する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID19蔓延のため、国内学会や海外の国際学会に参加できなかったため。今年度は参加の方針。
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