本研究では、まず健聴者を視聴覚統合による錯覚が起こる群と(Responder群:17名)と起こりにくい群(non-Responder:9名)の二群に分け、視聴覚統合タスク時の脳波の差を検討した。聴覚野と視覚野の反応はそれぞれCz、Ozでの計測に反映されやすいことから、この2チャンネルに注目し、θ帯域(4-7Hz)、α帯域(8-13Hz)、β帯域(14-40Hz)のパワーを比較すると、聴覚刺激の開始(t=0)より前に相当する-150msから-25msにおいてCz、OzいずれもResponder群でβ帯域のパワーが小さい結果となった。次に、人工内耳装用者に同じタスクを施行してもらったところ、全例で視聴覚統合による錯覚を認めた。この人工内耳装用者を音声言語聴取が良好な言語獲得後失聴群(PostLing群:7名)と言語獲得前失聴聴覚優位群(PreLing_auditory群:7名)、視覚に依存したコミュニケーションを行う言語獲得前失聴視覚優位群(PreLing_visual群:9名)の3群に分けて、健聴者で差を認めた-150msから-25msのβ帯域に注目し、そのパワーを比較した。その結果、Czのβ帯域のパワーはPreLing_visual群で優位に小さい結果となったが、Ozのβ帯域のパワーはPreLing_visual群で小さい傾向があるものの有意差は認めなかった。人工内耳装用者は健聴者よりも視覚を活用する傾向があるが、PreLing_visual群は特に視覚に依存して会話を行う傾向がある。本研究の結果から、聴覚刺激直前におけるCzのβ帯域のパワーが、視覚入力が音声言語聴取に影響を及ぼす脳機能の指標として有用であることが示唆された。
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