本研究では頭頸部がんの治療効果の向上のため、がん細胞の浸潤・転移のしくみを解明し、そのしくみを基に浸潤・転移を阻止することを目的としている。 頭頸部がんにおいて、これまでの治療の進展により臓器温存を含めて患者のQOLは改善しつつあるものの、生存率の大きな改善に至っていないのが現状である。その死因の多くは局所再発と遠隔転移であり、つまり、いかにがんの浸潤・転移を制御するかが治療の要であると考えられる。がんが浸潤・転移していく過程で、上皮の基底膜や周囲の間質を突き破り増殖していくためにはタンパク質分解酵素が必要であり、特にその浸潤・転移のあらゆる局面においてMatrix metalloproteinase (MMP)が関与していると言われている。 近年、がん細胞を取りまく微小環境の重要性が注目されており、がんの浸潤・転移のしやすさががん細胞自体のみならず、がん細胞と微小環境との相互関係が深く関与していることが分かりつつある。そこで、がん微小環境において、がん細胞がEMT(Epithelial-Mesenchymal Transition)を誘導するとともにがん幹細胞の活性化を促進し、そしてどのようにして腫瘍免疫抑制・回避能を獲得するのかを検討した。 EMT のがん微小環境における免疫逃避能獲得の関与が明らかになりつつあり,EMT 亢進と PD-L1 発現は一方向性ではなく,複雑な双方向性であることが示唆された。またPD-L1/PD-L2 をノックダウンすることで EMT を抑制することが示唆された。さらに、PD-L1/PD-L2 が癌細胞内外のシグナル伝達に関与している可能性が示唆された。 これらの結果から、がん細胞のEMTの発現誘導がPD-L1/PD-L2を介した腫瘍免疫抑制・回避能と密接に相互関係を保ちながら制御されていることが示唆された。
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