研究課題/領域番号 |
20K09721
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
伊藤 伸 順天堂大学, 医学部, 准教授 (80365577)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 内視鏡下副鼻腔手術 / ESS / マイクロデブリッター / 副損傷 / PVDFフィルム |
研究実績の概要 |
内視鏡下副鼻腔手術(以下ESS)は慢性副鼻腔炎を代表とする鼻・副鼻腔疾患の標準的治療として位置づけられているが、様々な医原性副損傷を来すことが報告されている。これら副損傷で最も多いのは、眼窩副損傷であり、とりわけ眼窩壁損傷が最多である。眼窩壁損傷を来した場合でも、眼窩侵入などの軽度障害であれば、眼球運動障害を引き起こす可能性は低いが、マイクロデブリッター(MD)のようなpowered instrumentを使用して副損傷が生じた場合には、外眼筋損傷などの高度障害が引き起こされることが予想される。我々は、PVDFフィルムによる眼球・眼窩振動測定で得られた計測値が眼窩損傷の危険察知の指標となり得るか検討してきた。MDがもたらす微小振動に注目し、測定で得た振幅値の左右比を解析した。症例ごとに振幅比の傾向に違いがあるが,80 Hz、160 Hz帯域の振幅比に注目することで要注意状態と安全状態を判別できる可能性が示唆されている。特徴的な振動をMDがもたらすことが分かってきたが、同時に危険状態を評価するシステムの開発も必要となる。そこで、我々は危険度の識別にAIを用いることを試みた。具体的には、機械学習を用いて、以前に得た振動データからMDの位置推定(安全、注意、危険)を行った。データ1点を入力すると3状態のうち一つを返答するような識別器を学習させた。また識別器の学習には非線形サポートベクターマシンを用いた。結果として、80 Hz帯域及び、160 Hz帯域の術側振幅及び振幅比の計測値を学習に用いることによって、85.8%以上の識別率を得たが、過剰にデータを適合してしまった可能性があり今後検討の余地がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
COVID-19パンデミックの影響で数か月間に及び、上気道に関わる耳鼻科手術の休止、延期期間があり、それに伴いESS件数も減少した。また、感染症防御の観点から手術室への測定機材の搬入や、協力を得ている電気通信大学の関係者の病院への立ち入りが全面的に困難となり、新規に計測データを得ることが全くできなかった。以前得たデータを再評価しAIを用いて危険度の判別を行える可能性があることを示すことができたが、より確度の高いデーターを新規症例で積み重ねていくことが必要であるため感染症の蔓延が本研究の進捗を妨げている。
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今後の研究の推進方策 |
1、測定器具の簡略化 今までは電気通信大学の協力者に被検者に同意を得たうえで手術室に入室してもらい測定機器の設置や手術中の機材の管理を行って頂いていた。現在使用している計測機材では波形が出ないなどのトラブル発生時には専門的な知識を用いての回復が必要となっていた。しかし、COVID-19のパンデミック下において本研究を推進していくには、協力者の病院施設への立ち入りがいつになったら可能なのか全く先行きが予想できないため、研究責任者のみで手術中の測定が行えるような簡便な測定装置への移行が必要と考える。 2、アラーム装置としてのAI活用 機械学習を用いて、以前に得た振動データからデータ1点を入力すると3状態のうち一つを返答するような識別器を学習させた。結果として、80 Hz帯域及び、160 Hz帯域の術側振幅及び振幅比の計測値を学習に用いることによって、85.8%以上の識別率で3状態の識別が可能と思えたが、過剰にデータに適合してしまった可能性があり、新規のデータを得たうえで、どのようなプログラムを用いると正確な判別が可能となるか再検証する必要性がある。これには電気通信大学の小池研究室の協力を得ており今後も推進する。 3、PVDFフィルム形状の改良 眼窩の形状によりPVDFフィルムの装着不備で測定ができない症例があった。例えばFDT-PVDFフィルムは,長方形のピエゾセンサ部からオフセットをとって柔軟性のある回路材であるピエゾポリマーテール(柔軟性のあるリード線)が延びており,出力先に対してBECコネクタによって接続される。今後はメーカーに確認し、眼窩の弯曲に沿ったオーダーメードによるフィルム作成を検討していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
現状の測定機材の簡略化が最も喫緊の課題である。今までは、用いてきた機材に対して知識を有した協力者が手術室に同伴することで研究を遂行してきた。しかし、前述のようにCOVID-19が収束するまでは研究責任者のみで、手術を行いながら自身で測定が行えるような装置が必要となるため、現状では複雑な装置を簡略化するために次年度の使用額が必要となる。また、より計測の精度を高められるPVDFフィルムの形状を追求すると共に、リアルタイムに警告を鳴らすアラームシステムについても電気通信大学の担当者と相談し各種機材の購入やソフトウエア開発をしていかなくてはならない。また、論文化を早期に実現するため、各学会に参加して本臨床研究に対する意見を頂き、考察に生かしていく予定である。
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