最終年度はこれまでの研究データの集積および成果の報告にむけての補強をおこなった。これまでの研究で、1)cerebellin1が外有毛細胞遠心性終末に発現し主にシナプスの維持に重要なはたらきがあり、2)その欠損マウスは高音域の難聴と加齢性変化の促進を示し、3)音響刺激(TTS)に対する脆弱性があり、4)その機序に遠心性抑制性入力の減弱による外有毛細胞障害と内有毛細胞シナプス病がある、ことが判明した。最終年度は、1)cerebellin1の起源、2)AAVウイルスを用いたcerebellin1遺伝子導入による欠損マウスのTTSのレスキュー、および3)野生型マウスの過剰音響刺激(PTS)に対する表現型の変化の有無を観察した。その結果、1)cerebellin1は遠心性終末の起始核である上オリーブ核を起源とすること、2)AAVによるcerebellin1遺伝子の強制発現によって欠損マウスのTTSは軽減しsynaptopathyを減弱することが明らかとなった。一方、3)野生型マウスでのPTSの減弱効果は確認できなかった。以上の結果から、cerebellin1は内耳保護機構である外有毛細胞遠心性終末の機能維持に不可欠であり、その欠損は音響刺激に対する脆弱性を増加させ、外有毛細胞の過剰な自動能を介したsynaptopathyを促進することが示唆された。これは加齢性難聴や騒音性難聴で想定されている内耳synaptopathyの病態とも矛盾しない。また同疾患に対する将来的なcerebellin1を用いた補充治療や遺伝子治療の可能性を開拓する成果である。現在、査読付き英文雑誌への投稿準備中である。
|