令和5年度の研究では、これまでの成果を踏まえてさらに発展的な内容の実験を行うことができました。 マクロファージを標識するIba1抗体を用いて血管条を標識した結果、対照群の黒色系と白色系の間では標識パターンに差異はありませんでした。しかし、実験群では顕著な違いが認められました。黒色系実験群では血管条の体積と表面積が共に増大しているのに対し、白色系実験群では逆に縮小しており、真逆の結果を示しました。この結果は、色素の有無によってマクロファージの活性化状態が異なることを示唆しています。 さらに、マクロファージの三次元形態解析を行ったところ、これらの細胞には一種の極性があることが明らかになりました。つまり、細胞の形状には特定の方向性があり、この極性がマクロファージの機能と関連している可能性が考えられます。 一方で、Slc26a4ノックアウトマウスの血管条内で起こっている分子生物学的変化を調べるため、公開されているマイクロアレイデータを再解析しました。その結果、発現量が増大している分子を複数同定することができました。加えて、シングルセルデータも解析し、マクロファージで見られている変化を網羅的に解析しました。これらの結果から、Slc26a4欠損がマクロファージの活性化に影響を及ぼしている可能性が示唆されました。 残念ながら、共同研究者からm-TOR阻害薬であるシロリムスの供与実験は、本学の動物飼育施設のレギュレーション改変によって中断を余儀なくされています。このため、現在この実験は進んでいない状況です。しかし、今後レギュレーションが改定されれば、この重要な実験を再開できる見込みがあります。 本研究では、血管条におけるマクロファージの役割と、Slc26a4欠損がそれに及ぼす影響について、新たな知見が得られました。今後はさらにこれらの結果を発展させ、内リンパ水腫の発症メカニズムの解明に貢献していく予定です。
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