研究実績の概要 |
白金製剤のシスプラチンによって難聴が生じることは知られている。その機序としては シスプラチンが細胞内での酸化ストレスを増加させ、ミトコンドリアの機能を損傷することや内耳有毛細胞への直接障害が考えられている。同じ条件で使用しても難聴になる場合とならない場合があることから、個々の薬物感受性に関連する遺伝子変異や遺伝子多型があることが指摘されている。<目的>そこで本研究では、日本人患者において共通する白金製剤感受性のある遺伝子多型を検索することで、小児固形癌に対するシスプラチン使用の際の難聴発現を予測できる可能性について検討することとした。<方法>小児がん治療のため白金製剤を使用している児の聴力検査結果および血液検体を収集し、白金製剤使用と難聴誘発の有無、海外で報告されている白金製剤に対する薬剤感受性遺伝子多型(TPMT,COMT,ACYP2)の有無について解析を行った。<結果と考察>既知の遺伝子多型(TPMT, COMT,ACYP2)は、解析した小児例128例のうち、TPMTは4人(難聴あり2人)とACYP2が6人(難聴あり4人) COMTは0人に認められた。日本人において本遺伝子多型は頻度も少なく、必ずしも難聴発現と一致しているわけではないことから、本遺伝子多型の関連は少ないと考えられた。一方、全ゲノム解析により日本人にある一定の頻度で認められ、内耳にも関連していると考えられる遺伝子多型が複数検討できている。近年の海外からの報告では他にSLC31A1やGSTP1,EFEGM1などの遺伝子もシスプラチンの毒性に影響を与える可能性が指摘されており、複数の遺伝子多型が薬剤感受性遺伝子として関連していると考えられた。
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