本研究では、ANCA関連血管炎性中耳炎の患者から採取した中耳貯留液を用いて、好中球細胞外トラップ(NETs)およびNETs代謝産物の存在の確認を行った。さらに、NETsおよびNETs代謝産物の発現量と臨床的側面との関連性を明らかにし、新しい診断法・治療効果判定法として用いることができるのか検証した。 まず、蛍光顕微鏡を用いた画像解析で中耳貯留液を観察したところ、ANCA関連血管炎性中耳炎から採取された中耳貯留液ではNETsの形成が確認できた。一方、滲出性中耳炎(コントロール群)から採取された中耳貯留液にはNETsの形成は確認できなかった。次に、MPO-DNA複合体、cell-free DNA、シトルリン化ヒストン-DNA複合体をNETs代謝産物と定義してELISA法で定量的な測定を行った。ANCA関連血管炎性中耳炎の患者から採取された中耳貯留液では、これらのNETs代謝産物の発現レベル値が滲出性中耳炎の患者から採取された中耳貯留液と比較して有意に高値を示した。ANCA関連血管炎性中耳炎の病態にNETsおよびNETs代謝産物が重要な役割を果たすことが示唆されたため、これらと疾患の重症度・活動性・治療効果などの臨床像との相関関係を解析した。NETs代謝産物の発現レベル値とANCA関連血管炎性中耳炎の聴力閾値は、正の相関関係を示すという結果であった。また、活動期のANCA関連血管炎性中耳炎から採取した中耳洗浄液のNETs代謝産物の発現レベル値を測定したところ、寛解期のANCA関連血管炎性中耳炎のものと比較して有意に高値を示した。 本研究結果から、NETsの適切な評価がANCA関連血管炎性中耳炎の診断や疾患活動性を評価するバイオマーカーとなりうることが示唆された。
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