研究課題/領域番号 |
20K09747
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
紫野 正人 群馬大学, 医学部附属病院, 講師 (20550015)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | セロトニン / 内側前庭神経核 / 一過性虚血 / 回転性めまい / 自発発火 |
研究実績の概要 |
高齢者の循環障害による一過性虚血による回転性めまい発作は脳梗塞の前兆と考えられ、近年の高齢化社会では注目されている。一方、神経伝達物質であるセロトニンは中枢神経系に広く存在し、不安、睡眠、情動などに関与するとされ、抗うつ薬や片頭痛治療薬として臨床使用されている。回転性めまいの代表疾患であるメニエール病の発作予防や持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD)で抗うつ薬であるSSRIを使用することもまれではない。しかし薬剤の投与タイミングは、症状の安定している、めまいのない時期での使用であり、回転性めまい急性期の使用でない。回転性めまいの制御中枢である前庭神経核にはセロトニン受容体が存在することが知られているが、急性期めまい発作期におけるセロトニン投与の詳細は明らかにされていない。これまでに申請者は前庭神経核の中でもとくに重要とされる内側核や神経積分器として眼球の位置情報をつくりだす舌下神経前位核におけるニューロンの一過性虚血に対する電気生理学的な変化を報告してきた。本研究では、一過性虚血中の自発発火が休止したニューロンにセロトニンを投与した時の反応を記録することで、循環障害による回転性めまい発作の急性期におけるセロトニンのニューロンレベルでの影響を電気生理学的に調査した。 内側前庭神経核ニューロンは一定頻度で自発発火を行っているが、一過性虚血状態にすると自発発火を停止する。この虚血状態でセロトニンをニューロンを栄養する細胞外液に投与すると、前庭神経核ニューロンは自発発火を再開するものがみられた(n=7)。一方、セロトニン投与をおこなっても静止膜電位は変化せず、自発発火が起こらないものがみられた(n=9)。以上より、セロトニンは一過性虚血中の、すなわち急性期めまい発作中の前庭神経核にも影響を与えることが解明された。 本研究内容は第79回めまい平衡医学会にて口演した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
セロトニン受容体のサブタイプ別にニューロンの応答性が十分に記録、解析できていない。神経伝達物質であるセロトニンに対する受容体は14種類のサブタイプがあり、本研究の標的である前庭神経核には5HT-1A,-1B,-2の受容体が発現している。それぞれのアゴニスト、アンタゴニストを還流する細胞外液に投与して、前庭神経核ニューロンの自発発火様式の変化を記録するが、薬物を投与すると電気生理学的な記録が不安定となり解析には不十分な現状のためやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は解析可能な一過性虚血中の内側前庭神経核ニューロンの自発発火データをえるために、対象とする内側前庭神経核ニューロンをcontinuous firing typeに限定する。この発火特性をもつニューロンは比較的大きな細胞体のため、パッチクランプによる記録が行いやすく、長時間の記録や虚血あるいは薬理学的負荷に対応可能な可能性が高い。 またセロトニン受容体のアゴニストの濃度や投与時間を変化させる。現状では5HT-1A受容体の特異的アゴニストとして8-OH-DPATを、5HT-1B受容体のアゴニストとしてCGS-12066Aを使用している。8-OH-DPATは1μMで30~60秒の投与を行っているが、5~10μMに濃度を上げるもしくは、投与時間を虚血時間と同じ5分程度まで段階的に延長することを試す。CGS-12066Aについても同様に投与濃度や投与時間を変化させて至適条件を設定する。 セロトニン、スライスパッチクランプ、一過性虚血の関連について研究している研究者は多くなく、それゆえに本研究の独自性がある。一方で、実験計画が遅滞傾向のときに対応策を相談することができる人数も限られている。当施設内の電気生理関連の教室や薬理教室をはじめ、学会参加を行い意見交換や最新の知見をえることで研究を遂行させ遅れを是正したい。
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