内側前庭神経核は眼振発現の中心的な役割を果たす脳幹神経核であり、舌下神経前位核とともに眼球位置を保持するための神経積分器としての働きがある。一過性虚血による循環障害により内側前庭神経核が機能低下に陥ると回旋性めまい発作が表現型として現れる。一方、セロトニンはモノアミン系神経伝達物質で、不安・睡眠・情動の調節に関与し、セロトニン再取り込み阻害薬によるシナプス間隙でのセロトニン濃度上昇はうつ病やパニック障害の治療に使用される。セロトニン受容体は組織学的に前庭神経核に存在することが証明されており、機能的には一側迷路破壊後の前庭代償に関与している。そこで、本研究では一過性虚血により機能低下した内側前庭神経核ニューロンに対するセロトニンの関与を電気生理学的に調べ、数種類あるとされるセロトニン受容体のどのタイプが関係するかを明らかにすることを目的とした。3週齢のラットの脳幹スライスを作成し、内側前庭神経核ニューロンからパッチクランプの電流固定法で自発発火を記録した。次に5分間の無酸素無グルコースの虚血刺激を与えて可逆的な機能低下状態(=自発発火休止)とし、セロトニンを細胞外液中に投与したときの、ニューロンの自発発火頻度を調べた。43%のニューロンがセロトニン投与により自発発火を再開し、残りの67%のニューロンでは変化がなかった。そこで、セロトニン投与により自発発火が再開したニューロンに対し、5HT-1Aのアゴニストである8-OH-DPATを投与したところ、自発発火の頻度が減少した。以上より一過性虚血により障害を受けた前庭神経核ニューロンのなかには、セロトニンとくに5HT-1A受容体を介した機序により自発発火頻度を変化させるものが存在すると考えられる。
|