一度瘢痕化した声帯粘膜は、音声機能を大きく損ない、ヒトの社会生活大きな影響を与える。様々なアプローチから声帯粘膜再生研究が行われてきたが、確立されたものはない。そこで、本研究は、積層した細胞シートを用いて、声帯粘膜の欠損部を被覆することによる、声帯粘膜再生効果を検証することを目的としている。 前年度までに、採取したイヌの口腔粘膜に酵素処理を行うことで、上皮細胞と線維芽細胞を分離し、培養することに成功した。培養した上皮細胞では重層化やバリア機能の成熟が確認できた。また、高濃度のゼラチン溶液から、ゼラチンハイドロゲル粒子を作製することに成功した。培養した上皮細胞と線維芽細胞をシート状に剥離し、ゼラチンハイドロゲル粒子を挟み込み、積層化することで、積層細胞シートを作製することができた。作製した細胞シートをイヌの傷害声帯に移植した。 今年度は、前年度、移植した細胞シートの評価を行った。移植した声帯粘膜は対側声帯と癒着しており、声帯振動は障害されていた。癒着部位を切離した上で吹鳴実験を行い、ハイスピードカメラで声帯振動を観察したところ、比較的良好な声帯振動が確認された。発声時の声門下圧は10cmH2O程度であり、声帯粘膜の萎縮は軽度で声門閉鎖は良好であった。HE染色では非再建側と比較すると細胞がやや密になっていた。アルシアンブルー、マッソントリクローム染色では非再建声帯と比較して、明確な差は認めなかった。
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