研究実績の概要 |
音響障害発症後3時間後の蝸牛において、どの様な機能に関係する遺伝子群の発現が変動しているか、網羅的検出法(RNA-seq、DNAマイクロアレイ)で検討した。難聴発症3時間後に発現量が変動する遺伝子の機能をweb上のデータベースで検討したところ、機能的遺伝子パスウェイとしては“Neuroactive ligand-receptor interaction” の神経情報伝達にかかわる遺伝子を32種類認めた。そのうち28種類はGABA、グルタミン酸、グリシン、エピネフリン、ノルエピネフリン、アセチルコリン、ドーパミン、セロトニンといった、神経伝達物質の受容体や、カルシトニン、プロラクチン、ソマトスタチンといったホルモンの受容体をコードする遺伝子であった。これらの神経伝達物質やホルモン受容体のほとんどは、難聴発症直後(3時間後)に発現量が低下していた。また興奮性シナプスの受容体(グルタミン酸受容体)と抑制性シナプスの受容体(GABA受容体)の両者の発現量が低下していた。つぎにこれらの遺伝子発現データについて、より定量性の高いリアルタイムRT-PCRによる確認実験をおこなった。リアルタイムRT-PCRで3種類のGABA受容体(Gabra3,Gabra5, Gabrb1)とグルタミン酸受容体(Grm1)の発現量を検討したところ、いずれも難聴発症直後には発現量が低下することが確認された。総合すると、急性感音難聴発症早期(3時間後)の蝸牛では,音響障害により、神経情報伝達にかかわる遺伝子群の発現が大幅に減少する。またこのとき興奮性シナプスと抑制性シナプスの両者が障害される。2022年度までの報告書に記した様に、同時に複数の転写因子群の発現も変動しており、これらの転写因子が神経情報伝達にかかわる遺伝子群の発現をコントロールしているかどうか、今後の検討が必要である。
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