研究課題/領域番号 |
20K09761
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研究機関 | 獨協医科大学 |
研究代表者 |
田中 康広 獨協医科大学, 医学部, 教授 (40266648)
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研究分担者 |
穐吉 亮平 獨協医科大学, 医学部, 講師 (80572859)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 味覚中枢 / 神経回路 |
研究実績の概要 |
本研究は、「味」として受容・認知される大脳皮質味覚野において、病態(恒常性維持の破綻)による味覚情報処理の神経回路様式および異なる感覚情報との統合様式について解明する。 2020年度は、①マウス大脳皮質味覚野の生体イメージング実験系の構築と②亜鉛低下による味覚障害のモデル樹立に取り組んだ。①について、マウス味覚野のイメージングを行うために新たに側頭部観察用のデバイスを開発した。同デバイス内部にxyz方向に可動するアームを装備することで味覚野領域の頭蓋を露出させ顕微鏡対物レンズ下でin vivoで観察することが可能となった。さらに味覚野神経細胞活動を2光子レーザー顕微鏡で観察するために同領域に緑色カルシウム感受性蛍光タンパク質GFP-based Calcium Calmodulin Probeをコードする遺伝子をアデノ随伴ウイルスを用いて注入し発現させることに成功した。今後、味覚野を長期間イメージングするために必要な観察窓作製手技および観察窓材料の検討を行う。②について、味覚障害マウスを作製するため、血中で亜鉛とキレートを形成し尿中の亜鉛排泄を促進させる薬剤の検討を行った。我々の検討では、亜鉛キレート剤を約2週間投与する(亜鉛キレート群)ことで、生食群に比べて血清亜鉛濃度が有意に低下した。さらに甘味および苦味による2瓶選択実験を行い、亜鉛キレート群の甘味摂取量が生食群に比べ有意に低下することが分かった。亜鉛キレート剤投与期間と血清亜鉛濃度との間に何らかの関連があることが明らかになったため、今後投与濃度および味蕾の組織学所見、さらに全身の臓器への影響についても検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大脳皮質味覚野の可視化実験においては、これまで使用されてきた頭蓋固定具の問題点を検討し側頭部の観察に適した新しいデバイスの提案・開発に成功した。また、当デバイスを用いて生体において大脳皮質味覚野の脳露出手技を振動なく安全に行うことが可能となり、露出させた味覚野表面にウイルスを注入させ蛍光タンパク質を発現させるという一連の方法がほぼ確立された。 味覚障害モデルの樹立については、亜鉛低下を引き起こす最適な薬剤の選択および薬剤投与期間を決定することができ、2瓶選択による行動学実験においても味覚障害の表現型が確認されており、予定していた研究は順調に遂行されている。
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今後の研究の推進方策 |
味覚障害時における大脳皮質味覚野神経細胞の活動様式の解析を行う。亜鉛キレート剤を用いて血清亜鉛濃度が低下する前後の同領域における神経活動を、同一個体で経時的に観察する。さらに味覚障害を起こしたマウスに対し、一定期間後に治療薬として亜鉛粉末を投与することで味覚閾値を正常化させた際の神経活動を観察し、治療前と同様の活動様式の有無と恒常性を維持するような新たな神経細胞群あるいは機能的な活動様式が現れるのか検討する。 上記の研究を推進するために、経時的に味覚野を観察するための特殊なカバーガラスを用いた観察窓を作製する。また、味覚障害が薬剤の濃度依存的に味覚閾値を変化させるのか、さらに旨味・塩味・苦味といったその他の異なる味覚感覚を障害させうるのかについて検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
値引き交渉により費用が抑えられたため物品試薬・実験動物含め実験系を用いて継続して研究を行っていく。
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