研究課題/領域番号 |
20K09766
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
馬場 隆之 千葉大学, 大学院医学研究院, 准教授 (00361725)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 強度近視 / 眼軸長延長 / 網膜外層構造 / 網膜機能 |
研究実績の概要 |
近視は全世界的に、特に東アジア地域で若者を中心に増加している。近視眼では眼軸長の延長に伴い眼球が前後方向に大きくなる。眼球壁が伸展され、病的近視眼では眼底病変を生じ視力低下する。この眼軸長延長の機序については詳細がわかっておらず、予防法も見つかっていない。本研究では、この眼軸長延長に対して影響を与える因子の一つとして血糖値に注目し、仮説として高血糖が眼軸長延長を引き起こすか否か、また実際に高血糖が眼軸延長を引き起こすか確認された際には、どのような機序でそれが生じるかを明らかにすることを目的とした。本年度は、強膜線維芽細胞の分離を行うことを予定としていたが、実験環境の調整を行うことを主に行い、実際の実験が可能となるまでの間、強度近視眼に関する臨床データから、眼軸長延長と視機能に及ぼす影響について検討した。 強度近視眼では眼軸長の延長に伴い、黄斑に全層の円孔が生じ、黄斑円孔網膜剥離を生じる事がある。この網膜剥離は治療が難しく、手術を行っても網膜を復位させることが出来ず、予後不良となることがある。近年黄斑円孔網膜剥離に対する術式は改良され、硝子体手術と剥離・翻転した内境界膜により黄斑円孔をカバーすることで円孔閉鎖率が向上したとの報告がある。そこで、千葉大学病院にて治療を行った46症例46眼を対象に、内境界膜剥離のみ(18眼)と内境界膜による円孔カバーを行った28眼を比較した。結果として円孔カバー群の方が術後視力は良好(P=0.049)であり、円孔閉鎖率、網膜外層構造の回復も良好であった。このことから、内境界膜による円孔カバーは有効と考えられた。 つぎに、眼軸長の延長した黄斑前膜の症例での術後視機能を56例56眼で検討した。年齢と術前視力を調整した、眼軸長26mm未満と26mm以上の二群で比較した。両群とも術後視力は改善したが、長眼軸眼では網膜外層構造の回復が悪かった(P<0.01)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
実験室での細胞培養設備の調整のため、現時点ではラット強膜由来線維芽細胞のアッセイを行える状況にない。実験の準備が整うまでの間、眼軸長が延長した高度近視眼に関する臨床的研究を行った。今後、細胞培養が再開次第、予定の研究をすすめて行く。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度:ラット強膜線維芽細胞の分離:強膜実質にはコラーゲン線維と線維芽細胞が ある。高血糖が線維芽細胞に対して影響を及ぼすかを検討する。Long-Evansラットを安楽死後、眼球摘出し前眼部、網膜と脈絡膜を除去し、強膜組織を分離する。強膜を細断後、3回継代培養した後の細胞をラット強膜由来線維芽細胞としてアッセイに使用する。 高血糖による強膜線維芽細胞の抑制:低glucose DMEMをコントロールとし、濃度勾配をつけたglucoseを含む培地にてcell proliferation assayを行い高血糖下で線維芽細胞の増殖が抑制されるか見る。また、wound healing assayにて細胞遊走をみる。cell viabilityはTB染色により検討する。以上のin vitroの検討から、高血糖が濃度依存性にラット強膜由来線維芽細胞の活動性を抑制するかどうかを明らかにする。 2022年度以降:糖尿病ラットモデルの作成:糖尿病による高血糖が近視進行に与える影響を調べるため、糖尿病モデルを作成する。Long-Evansラットにストレプトゾトシン(30mg/kg)を腹腔内注射し2型糖尿病モデルを作成する。 近視モデルの作成:麻酔後に、上記ラット片眼の眼瞼を6-0ナイロンにて完全に縫合する。視覚遮断により、縫合を受けた眼は眼軸長が延長し近視化する。縫合前、後2,4,8週の時点で縫合を抜糸し、屈折を測定し、また眼軸長を測定したのちラットを安楽死させ眼球を摘出する。 近視モデルにおける強膜構造の検討:摘出眼球に対しては組織学的、免疫組織学的検討を行う。摘出眼球を固定後、前眼部を除去したのち組織学的観察を行う。強膜厚に加え、外顆粒層、神経細胞層の厚さも測定する。Masson染色を行い強膜コラーゲンを同定し、密度や線維束の太さを測定する。透過電子顕微鏡によりさらに詳しく強膜形態を観察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は細胞培養環境の調整のため、試薬等の購入がなかった。来年度、細胞培養実験や動物購入費用に使用予定。
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